【INTERVIEW】アブナイSSW北村早樹子「愛って言葉がいけないんです。」

北村早樹子の作品を初めて聞いた時、真っ先に戸川純さんの「蛹化(ムシ)の女」を思い出して喜んだ。そして彼女の新作『わたしのライオン』を始めて聞いた時、真っ先に「遂に目に見えるカタチになったぞ!」と喜んだ。本作は誰が聞いてもまず音が決定的に違う。レトロな構造を崩さずに音の透明感をそして厚みをプラスした難技には拍手を送る他ない。それにより浮き彫りにされるエロス。このエロスの定義が時代によって移りゆく中で「今」を皮肉るような質感こそが彼女の無意識な秘技であり、それらは「女性の悪と性が正常に納められた魅惑の現実」とも言えようか。 インタビューでの彼女はお馴染み「アウト×デラックス(フジ系列テレビ番組)」どおりの「変わった雰囲気」調でゆっくりと語ってくれたのだが、その眼差しは作品どおりの「シミだらけの人生」調に静かに現在を見据えていた。そして、興奮すると可愛い。 彼女をまだ「異色」で片付けるか?僕はそうは思わない。大多数を占める女子に潜む悪と性をデザインするマルチ女子クリエイター、そう映っている。 ▷大阪にお住まいで? 北村 いえ…もうこう、こっちに住んで7年目とかです。関西弁が抜けないだけで。 ▷どうですか?大阪と東京って。 北村 もう全然!東京の方が馴染んでるというか…。東京大好きなので、むしろ大阪は帰りたくもないみたいな感じなので(笑)。 ▷(笑)どうですか? 北村 やっぱりね、人の感じとかが全然違う。 ▷大阪の方とお話しする機会があったんですけれど、東京ではみんなが信号を守っていてびっくりするって。 北村 そうそう、そうですね。大阪人は反対側の信号がピカピカしてるときは行ってもいいっていうことになっていて。本当は良くないんですけど(笑)。 ▷今日は、アルバムについてのお話しと北村さんについてのお話を少し伺いたいと思っています。 北村 よろしくお願いします。 ▷まずはおめでとうございます! 北村 ありがとうございます。 ▷10周年にリリースされた『グレイテスト・ヒッツ』以来ですよね。 北村 いつもはソロだから自分の采配のみで作っていたんですけど、今回はプロデューサーさんがいて、その方に編曲ごとお任せするっていう形だったので、人と何かをしっかり作るっていうのを初めてやったので… ▷難しかった、ですか? 北村 いや、それがレコーディングもすっごく楽しかったです。一人でやっていると、どうしても自分で自分を追い詰めてしまっている感じなんですけど、プロデューサーがいることによって「ああして・こうして」って言われるのに乗っかっていけば良い感じだったので、すごく楽しくレコーディングできましたね。 ▷まず、音が格段にクリアになった印象を受けたのですが。サウンドプロデューサーが中村宗一郎さんですね。 北村 最初は「すごく気難しいオッサンだろう」と思ってビビっていたんですけど、いざご一緒してみると、本当に「面倒見のいいオッサン」って感じでお世話になっておりますね、いろんな面で。 ▷北村さんの楽曲っていうとまずは“個性的な歌詞”だと思うんですけど、音質がクリアになった分、音数が増えても歌詞が入ってくる、入ってくる!一曲目が「本日の悲報」。出だしが「日本でいちばん臭いらしい…」。かなり衝撃的です。 北村 いきなりそれですもんね(笑)。 ▷しかも三拍子ってわりとポップでは扱われないようなリズム。でも北村さんは躊躇なくよく使いこなされていますよね。 北村 私、好きなんですよ、三拍子。四拍子よりも三拍子の方が出て来やすいんです。「ずんちゃっちゃ、ずんちゃっちゃ…」みたいなノリが好きなのか、私の曲にはわりと曲が多い。 ▷アルバムタイトルもすごい。『わたしのライオン』は曲にもありますが、曲から作れらたのですか? 北村 はい。「わたしのライオン」っていう曲がそのままアルバムタイトルになりました。 ▷リード曲になるわけですが、これもかなり歌詞が…スゴくないですか? 北村 ちょっとエロいというか… ▷エロいって言うか…エロい、ですよね(笑)。 北村 そうなんですよ(笑)。 ▷すごいですよね。「ようこそ待っていました 狭いところですけど…」って。例えばこれをカヴァーで歌える人がいたら紹介してほしいくらい。誰も歌いこなせないでしょう? 北村 なんですか、それ(笑)!誰でも歌えませんか? ▷この世界を表現できる人ってなかなかいないでしょう。 北村 ヤラしい歌ですよねえ、本当に! ▷別の方が歌ったら、変にいやらしくなったり奇をてらう感じになったりしちゃう。これは北村さんの天性としか言いようがないから、ちょっとズルい!なんて(笑)。 北村 私はおっぱいも全然ないんですけど、エロさみたいなのが人より少ないからちょっとギョッとするくらいのことを言っても許してもらえているんちゃうかな?って。多分、本当にグラマラスでヤラしい感じの人がエロいヴォイスで歌うと、ちょっとやりすぎな感じになるかもしれないんですけど、私は残念ながらあんまりないんで、なんとか許してもらえているんだと思います。もう三十路なんですけど(笑)。 ▷いやね、私はこれが北村さんの最強の武器の一つなんじゃないかって思っているんですよ。例えば私はこの作品を通して「エロスとは何か」と考えるわけですよね。或いは「色気とは何か」。叶姉妹のように直接的なものだけがエロスじゃない。誰が操作するのか、そうなりがちですけどもね。このサウンドになってから余計に北村さんの考えるエロスが浮き出てきた。 北村 あら! ▷それに加えて最小限のノイズやエレキの男臭さや汚さで“エロ”がさらに引き立つんですよ。これを読んでから作品を聴いてくれた方は「エロくねえじゃん!」っていう人もいるかもしれない。でも、きっと頷く方も多いと思うんですよね。 北村 私は意外とエロスとは無縁の人間と思われがち。それこそ「アウト×デラックス」という番組を観た人が「バツイチなんです〜」っていう私の発言に対して「絶対バツイチなワケないだろ〜!コイツ処女だろ〜!」ってつぶやかれたりしていて。 北村 それを見て「処女って思われるんや〜あ…。」みたいな感じがあったんです。「普通に30代女子が起きるくらいの…それくらいのことはやってるぜ?」みたいな(笑)。そんなに経験豊富なワケじゃないですけど、(私の作品は)女の人なら誰しも思うようなことなんじゃないかって。 ▷むしろ女性の世界をそんなに知らない男性がそういうのかも!あんまり良い例えが思いつかないんですけれど…例えばE-Girlsみたいな女子はほんの極一部で、大多数は“ただの女子”。男子がゲームやスニーカーに対し夢中になるように、女子も何かに夢中になったりするわけで。因みに、いちばんお気に入りの曲はどれですか? 北村 やっぱりリード曲になった「わたしのライオン」。こういうアレンジになって、すごく気に入っていますね。あとは、森下くるみさんが歌詞を書いてくださった「みずいろ」っていう曲があるんですけど、自分では書けないような言葉。くるみさんはわたしのパーソナルな部分をわかってくださっている方なので、すごく当て書きをしてくださっていて…「泣いちゃう!」みたいな。 この「いろんなことがあったけどもね この染みだらけの 人生がとても だいすき」ってい言うところがすごくないですか? ▷うん…ああ、いいですね!染みだらけの人生。ぐっときますね。 北村 みなさん自分に当てはまる方もいらっしゃると思いますね。 ▷森下くるみさんは北村さんのお友達ですか? 北村  くるみさんの『すべては「裸になる」から始まって』という本を読んですごく感動して、ファンになったんです。 3年くらい前に私が出た映画と同時上映されていたのが森下くるみさんが脚本を手がけた映画で、その時に配給の人に「ファンなんで、チョット紹介してもらえませんかね?」とかいって近寄って(笑)。 北村 当時は家が近所だった時もあったのでくるみさんが「遊ぼうよ!」って言ってくださったんです。そこから色々ご飯を食べに行ったり家にお邪魔したりして仲良くさせていただいています。だから私の卑屈な部分や暗い部分をわかってくださっているので、良い曲を書いていただけたんだと思います。 ▷では、今回北村さんが作詞をオファーされたんですか? 北村 そうですね。多分作詞をお願いしたのは初めてだと思いますね。そういうことを誰かに…。 ▷そうですよね。北村さんといえばシンガーソングライター。それから劇団もされていますよね。 北村 いえ、客演で呼んでいただいてちょっと出していただいてる程度ですけど。お芝居はご覧になりませんか? …