2016
01.17
リサイズ014_LOV_19767

【INTERVIEW】王舟2nd『PICTURE』で学びたかったモノ

INTERVIEW, RELEASE

デビューアルバム『Wang』が好評だった王舟の“ポップな環境音楽”とも呼べそうな2nd『PICTURE』がまもなく(1月20日)世に送り出される。本作で更に個人的な音楽に対する理解を深めたようだが、実はそれらが聴き手にとって無意識に求められていたバランス感覚であったことに喜ぶ。しかし同時に、これらに向き合うポップアーティストはいても果たしてそれを反映させた作品が一体何枚店頭に並んでいるのだろうかと少し寂しくもなる。

とかくメロとフック地獄に陥りがちなポップ市場において、非常に貴重な存在であることが証明された王舟の音楽観や人間観にまつわるこれらのトークは、いつまでも話していたくなる魅力で本当に溢れていた。

 

(Photo / Mami Otsuki)

 

 

 

008_LOV_1932

▷ 今回の作品は前回のバンドスタイルとは違って“完全宅録で”ということですけれど、それは意図があったのですか?

 

王舟 環境を変えてやるという目的がなんとなくあって。あとは、一人でやっている方が色々じっくりやれるんで、音の関係性みたいなものを確認したくて。前作うまくいかないなっていうところがあって、それが自分一人で全部やるって言ったら微調整が出来るんで「それで調整したらどういう響き方をするんだろう?」って興味があって。

それを確認したかった感じですかね。

 

▷ 前作でうまくいかなかった部分って、例えばどういったところですか?

 

王舟 それは良かったところでもあるんですけど…すごく細かい話になっちゃうんですけど、ギターの鳴る頭とバスドラムが、結構かっちり決めないで、ズレてるのが良かったんですけど…ちょうどその中間くらいが取れないかと思って。ちょっと丸っこい感じの演奏を「こういうやり方をしたら出来るんじゃないか」っていうのを試したりしましたね。みんなでやるとなかなか難しいので、自分でやって後で修正した方がいいかなって。

 

▷ 実際の制作期間はどれくらいだったんですか?

 

王舟 …8か月くらいですかね。半年から8か月。

 

▷ それは王舟さんにとっては短い?前作が確か長かったんですよね?

 

王舟 前回は3年か。あ、それもありますね!前回はみんなでやるんで、スケジュールがなかなか取れなかったり、事務的なことで時間食っちゃったりして。それも一人だったら自分の予定が空いていればいつでも出来る。それもあって「じゃあ、一人でやってみようか」ってなりました。

 

▷ 率直な感想としてはどうですか?一人でやってみて。

 

王舟 そうですね。一人だったら一人の大変さがあるな。途中から面倒くさくなっちゃって(笑)。「これ、誰かに演奏してもらったらすぐ終わるのになー!」って。でも、勉強にはすごいなった。あとは、アイディアが自分の中だけしか出ないんで、そういうところが良かったりもするし、やっていて「寂しいな」っていうのもあった。それは今後に活きたらいいなって感じです。

 

▷ でも「寂しいな」っていうような、嫌な感じが全然しないですよね。ネガティヴな感じがしないですよね。

 

王舟 「寂しいことは悪い事だ」っていう考え方もないって言えばなかったんで。

 

▷ そうですね!確かに。

 

王舟 うん。一人でやると、こじんまりとなりすぎちゃうところがあるんで、そうならないようにはなんとなく心がけていたんですけど。でも、いざ出来上がってみると自分でずっと何ヶ月も同じ曲を聴いているから「どうなってんのかな?」って自分じゃあわかんなくて。で、人に聞いてもらった時に「世界観が狭い感じがあんまりない」って言われたんで、それは嬉しいな。でも、世界観が狭い作品も好きなんですけど、人の作品は。今回は前のアルバムが割とみんなでやっていて明るくて爽やかな感じがあったんで、いきなりネガティヴな感じの作品にはあんまりしたくないなっていうのはあった。

 

▷ 一枚目を王舟さんのイメージだと思って(本作を)聴くと「これも王舟さんかあ!」って思うかもしれないけど…

 

王舟 ああ、そうですね。

 

▷ きっとずっと前からこういう感じの方だったんじゃないかなって。

 

王舟 そうそう。まさにそうです。CD-Rは2枚あって。それを以前自分で作っていて。1枚は今回みたいな感じの“全部打ち込み”みたいなやつ。で、2枚目は1作目(Wang)のCDみたいな感じで友達とみんなで演奏しているんです。でもどっちもやりたい感じ。

2枚目もバンドで作ったりするとそういう人だと思われて一人で作る機会をなくしちゃいそうなんで、早めに一人で作ろうっていうのは思いましたね。

 

▷ 宅録って聞くと、使っていらっしゃるソフトはそんなに変わらないし、良い意味でも悪い意味でもスマートできれいなパッケージを想像してしまうんですよね。でも『PICTURE』はきれいな感じがとっても良い意味でないですよね。

 

王舟 そうですね。ディテールがちゃんと聞き取れると、そこの面白さがあったりする代わりに曖昧さからくる面白さの方ががなくなるから…曖昧な方が好きなんで、どっちかっていうとあんまりパキってしないように。結構きれいに録れるんですよね、最近の機材は。聴く人からかけ離れてる価値観じゃなくって、もうちょっと親近感がある感じがあった方が良かったんで、きれいに撮れた音も汚したりしました。

005_LOV_1908

 

▷ マラカスを使われていましたけど…2曲目は割と“マラカス”。でも、それでもイビツっていう感じのマラカスなのに「lst」のは…あれもマラカスですか?ついには紙をぐしゃぐしゃしたような感じ。

 

王舟 マラカスの振り方と、録り方を変えてる。こうやって(上下に)振るのと、こうやって(横に均すように)振るのと…。ちょっと揺らぎを与えると、軽く動く感じ。

 

▷ 前作も、確かアルミを使っていましたよね?

 

王舟 そうですね。それは友達のミュージシャンでシャンソンシゲルっていう人がいて、自作でドラムを作ってて、それと灰皿とかアルミ缶を叩いたりするっていうセットで参加しました。日常にあるみたいな音を入れる…って感じですね。

 

▷ 音楽のルーツを感じますよね。だって、その昔は楽器を作っていたものだし、楽器でないものも楽器にして楽しんでいたわけじゃないですか。

 

王舟 楽器を取り上げられた黒人がドラム缶を叩いていてそれがスティールパンになった、みたいな。そういう「物は何でもよくて、音楽がやりたい」みたいな感じは好きですね。

 

▷ そのパンですけども、特に3曲目…80年代ポップ調のけっこう存在感のあるシンセと合わされているじゃないですか。この共演!

 

王舟 そうですね。…なんか、入れてみたら「アリかな」って…

 

▷ 超・アリでしょ!それで「これ、聞いたことないだろ?」って同意を求める感じが全然ないじゃないですか。でもね、普通のリスナーの方は気づかないまま10回くらいリピートして初めてこの未知なる美味しさに気づくくらいのさりげない“新しさ”じゃないですか?

 

王舟 なんか新しいことをやってる人っているんで、その中で「これすごいだろ!」ってことをいくらやってもその人たちの方が凄いんじゃねえか?って思っちゃうんですよね。その人たちの凄さって、本当は良くわかんないんですけど…なんか凄そうだから(笑)。自分は「曲をシンプルに書きたいな」って思って、装飾音をどうするかっていうのは割と開けた感じで考えたいのかもしれないです。「絶対この楽器を使わなきゃいけない」っていうのがない。

 

▷ ないですよね。「すごい音楽って何?」っていうのもありますよね。

 

王舟 そうですね。「自分たちの凄みっていうのを提示するって、別に音楽じゃなくてもいいんじゃないかって思う。それって人間の個性を聴いているっていう感覚だから、そこは別に自分にとってはそんなに重要じゃないって気がする。…って思うんですけど、結局声をあげた奴のほうが強いっていうか、なかなかみんな凄みを出さなきゃいけないって感じの空気がありそうな気がして。

 

▷ この作品を聴いていると“凄み”に執着することがナンセンスに思えてくるんですよ。「これすげえ!」「これバズる!」とか、「どうでもよくないか?」って思えてきます(笑)。

 

王舟 あります、あります(笑)。

 

▷ それよりも目線で作られた音楽は聴く方も構えるし「Yesって言わなきゃ!」って圧迫感がある。

 

王舟 同調が強いですよね。

 

▷ もともと音楽って生活の中にあるもので、コーヒー飲んだり、ケーキを食べたり、音楽をしたりっていう。

 

王舟 そうですよね。確かに!コーヒーで言うと、ものすごい主張が強いコーヒーをそんなに手軽に入れられないですよね。音楽って大体CDでコピーだから、気軽に手に入れられるけど、日用品とかって意外と飲む人はこだわり強いわけじゃないから、ちょうどいいっていうところはありますよね。

 

▷ あとは王舟さんと言うとボサノヴァ、エレクトロニカ、ソフトロックなどと言われますけれど、今回はそんなにボサノヴァしてるわけでもなくて、もっと環境音楽として開けてる。

 

王舟 そうですね。なにもないって言ったらなにもない(笑)。でも曲がシンプルだとそれはそれで分かりやすいんじゃないかって思いますね。

 

▷ トロピカルな感じも。パンは本当に多様されていますけど、あれはご自分で叩いているんですか?

 

王舟 あれは、キーボードに入れておいて弾くとパンの音がする。

 

▷ 打ち込みなんですか?まさか!叩いているのかと思った。

 

王舟 そうです。テクノロジーが進んでいるんで、そういう音があって。でも本当に叩いてるっていう実感が湧くパンの音、そういうのも今回やってみたかったことの一つなんです。例えば、ピアノの当たる音(アタック)がなかったりすると、残った音がサックスの音とどっちがどっちだかわからなくなっちゃう。そういうところがあって。細かいですけど「楽器ってなんでこう言う風に聞こえるんだ?」っていう勉強もしたかった。僕はそういうのが面白いって思うんですけど、聴いてる人にはそういうのは関係ないとは思うんで、そういうのをやりつつ出来るだけ曲を成り立たせようと思ってやりました。

 

▷ 演奏時のノイズもわざと?

 

王舟 一回キーボードで録った音をまたスピーカーで出してマイクで拾ったりとか、質感を調べたりするっていうのを結構長い時間やっていました。

 

▷ すごいなあ!それは面倒くさくなる(笑)。

 

王舟 そうですね。録ってる時はシーンとしていなきゃいけない。それがドラムとかになると十何個か録らなきゃいけないから面倒臭い!「これ、意味あんのかな?」とか、結構思ってました(笑)。

 

▷ 「ディスコブラジル」も再録されているんですよね。

 

王舟 実はこっちの方が先のバージョンなんですよね。

 

▷ そうなんですか!

 

王舟 これを先に録って、どうやってバンドでやろうかってことでアナログで出したやつになった。こっちは原型っていうか。ちょっとだけ手を加えてますけど。聴いてる人がどっちが先とかわかんなかったりする感じもいいなって(笑)。

 

▷ で、またいろんな方がアレンジされてるじゃないですか。

 

王舟 そうですね。

 

▷ あの曲自体が育っている感じがしますよね。

 

王舟 ありがとうございます。

013_LOV_1975

 

▷ あとはとにかく王舟さんの“リズムの多様性”って言ったら安直で失礼なんですけど…全く飽きないじゃないですか。

 

王舟 ありがとうございます。

 

▷ すごいのがね、曲ごとじゃなくて、一曲ごと。それもね、人が呼吸するレベルのズレ。

 

王舟 それもね、それぞれのパーツを少しタイミングをずらしたりすると全然表情が変わるんで。そういうのも勉強も一貫としてやりました。

 

▷ 本当に感動しますよ。例えば演奏者の小さな「セーの!」みたいな感じ。

 

王舟 そうですよ。そういうのも一人でやってるからなかなか出しづらくて。みんなでやってる感じがちょっと欲しかったんです。でも「なんかやってみたら出るんじゃない?」って思ってやってみて(笑)。そう言ってくれるのはほ本当に嬉しいですね。

 

▷ ライヴってそういうものじゃないですか。生きている人がやっている。でも音源だとなくなっちゃうことが多い。

 

王舟 そうですね!それはありますよね。

 

▷ それが宅録にあるって…これもまた変な感じですよね(笑)。

 

王舟 そうですね。上手い人ほどライヴの感じよりも音源はカチッとしてる印象はありますね。「原因はなんだろうな?」て思ったりする。前のアルバムは「スタジオでレコーディンツしない」って決めていた。人の家でやったりライヴハウスでやったり。レコーディングの環境を変えてみょう、みたいなのがあって。

そういうことに関してカチッとしたものにしたくないっていうのはあって、宅録でそういうのが出ていたらすごく嬉しいです。

 

▷ 前はシンバルが自然にフェードアウトするまで録っていましたよね。

 

王舟 あ…長い。それはドラムの人がシンバルに穴を開けて、そこに金属をはめると共鳴するっていうことをしてて。結構そういう細かいところに…(笑)。

 

▷ いやいや、そんな余韻を大事にされる方なんだって。あとは「あいがあって」。”出会いがあって”じゃなくて”愛”。

 

 

王舟 あ!そうか。

 

▷ あれ?違ったんですか?

 

王舟 今気づきました。”で”を入れると”出会いがあって”。

 

▷ 「出会いって別れがある」って歌ってる人はすごく多いのに、「愛があって 別れがある」って歌う王舟さんって素敵じゃないですか(笑)?

 

王舟 あ…ありがとうございます。言われると、確かに(笑)。

 

▷ まあ、でも王舟さんのことだから歌詞にあんまり意味を含ませたりしませんよね。フォーク調だけどもメッセージを押し付けるような方じゃないから。

 

王舟 そうですね。

 

▷ おしゃれだなあっと思って(笑)。

 

王舟 これもパッと出てきたまんまの感じ。あんまり自分は日本語で歌詞を書いたりしていないんで、変に取り繕ったりしちゃいそうだなって。割と言いたいことがないような感じで言っているのが好きなんだと思います。

 

▷ そうですね。でも、そもそも人って言いたいことなんてそんなにないと思いませんか?

 

王舟 思います、思います。「今が、何が」とかそれくらいですよね。それでもやっぱりカッコつけるっていうのが大事なことなんだな?って、逆に思いますけどね(笑)。

 

▷ それは仕事の上で?

 

王舟 いやあ…でもなんか、真面目に主張してる人はいて、それはそれでいいなって思います。ちゃんと主張できるっていいなって思います。その主張が強引じゃなかったりすると若干うさんくさい感じがするっていうか。わがままな感じの人って信用できる。うまく主張するのは社会と折り合いをつけなきゃいけない感じで、身につけなきゃいけないのかな。

 

010_LOV_1935

 

▷ ジャケットにも注目したい。これも王舟さんらしいって言っていいですか?確かお父さんが画家の方でしたね。

 

王舟 そうですね。油絵ではないですけど。

 

▷ ご自分で選ばれたんですか?

 

王舟 そうですね。どの絵にするかっていうのは。結構入れたい絵が多かったんで困りました。かさぶたみたいなのが好きなんですよね。描いた痕跡がそのまま残っているのが素敵だなって思います。

 

▷ そうですね。雪の絵ですけども、冷たい感じがしないですね。それは描いた感じでしょうね。

 

王舟 一部分だけ拡大したら何にも出てこないけど、引いていくといろんなものが見えたりして。

 

▷ 本当ですね!

 

王舟 この人、すごくいいですよ。オム・ユジョンさん。女性で若い方なんです。

 

▷ 女性なんだ!

 

王舟 これ(ブックレットのデッサン)も、同じ人なんですけど、こっちもいいですよ。

 

▷ …この世界観は”CDである理由“ですよね。

 

王舟 「ジャケもいいけど中もいい」っていうのはこだわった感じ。

 

▷ なるほど…この風景は…韓国なんでしょうかね?

 

王舟 これは、違うと思いますね。

 

▷ あ、でもそんなこともどうだっていいんでしょうね。王舟さんの曲はどこだかよくわからないけど、そこがいいんですものね。

 

王舟 そうですね。あんまりどういう情景が描きたいっていうよりは手触り。で、どういう想像をするかっていうのは聴いている人がそれぞれバックグラウンドが違うんで。それがいいなって思って。聴いている人が物思いにふけるきっかけになったらいいな。

 

▷ ふけりますね。もしかしたら実家に帰るより、これ(『PICTURE』)聴いていた方が気持ち良いかもしれない。

 

王舟 そうですよね。それぞれの場所になる感じはありますよね。それは最初に話した押し付けがないからなんだと思うんですけど、誰の場所にもできる。押し付けがあると、その人のところに行かないといけない。それが王舟にはない。今いる場所を”そういう場所”にしてくれる。

 

▷ 王舟さんの真似はしないんですよね。アクションはないけども、多分、もうすでにみんな“王舟さんぽい”んですよね、みんな。

 

王舟 なるほど!そうかもしれない。「こういうとこ人間っているよな。」みたいなところかもしれない。

004_LOV_1886

▷ 今回の『PICTURE』のお話に戻りますが、確かソロツアーの後にバンドでライヴもされますよね?

 

王舟 そうです。バンドは12人でやるんですけど、それが大阪と東京で二回なんです。

 

▷ 東京はリキッドルームでしたよね?

 

王舟 そう、大阪はシャングリラ。

 

▷ これは楽しみですね!

 

王舟 是非良かったら!

 

▷ 是非伺います!その他はソロですね。ソロのツアーって、移動が寂しいらいしですよ(笑)?

 

王舟 あ、でも対バンとかがあるし2週間なんで。…でも多分それが限界だと思う。

 

▷ そしたら何か(Twitterで)つぶやいてください(笑)。

 

王舟 あー!でも「こいつ寂しいんだあ。」ってライヴ来られるのもいやだな(笑)。

 

 

PICTURE-1

【リリース情報】

アルバム: PICTURE

アーティスト:王舟

リリース日:2016.01.20

価格:¥2,500(+tax)

 

《収録曲》

  1. Roji
  2. Hannon
  3. Moebius
  4. 冬の夜
  5. lst
  6. ディスコブラジル
  7. Hannon(Reprise)
  8. Picture
  9. Rivers
  10. あいがあって
  11. Port town

 

ohshu

王舟 Official Web

http://ohshu-info.net/