2016
02.22
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【INTERVIEW】Kie Katagi「同世代の女子の気持ちに添えるような音楽ができたらいいな」

INTERVIEW

愛される音楽の中には「誘惑の音楽」と「気質の高い音楽」の二種類が存在すると思っている。「誘惑の音楽」とは、つまり個人の邪気によって引き寄せられる音楽。一方「気質の高い音楽」とは、純度の高い澄んだ音楽。そう言った見方をすれば、Kie Katagiの居るjizueの音楽は「気質の高い音楽」として耳の澄んだ人々から愛され、またその愛を全身で受けて育った理想的なバンドだと思う。そんなjizueの中でもテクニックのみならず温もりや深みの部分でもバンドに貢献してきたKie Katagiが遂に初ソロアルバム『Serendipity』をリリースした。

積み上げられた人徳はテクニックに等しく、惜しみなく注がれる音粒達の調べは僕らの刹那を愛を持って包み込む…。30歳を目前に揺れる自らの心情を調えながら周囲にも寄り添う姿そのままを丁寧に音楽に置き換えたシンプルな製法による楽曲に耳を傾ければ、それぞれがまるで僕らの大事な友人のように思えるだろう。

これより始まるのは、愛すべきピアニスト・Kie Katagiの初ソロアルバム『Serendipity』を記念した、ハートウォーミングなインタビュー。彼女の弾むようなガールトークと共にお届けしたい。

 

 

—Smile 心が病んでいても

Smile 心が折れてしまっていても

あの空に雲があれば 君はきっと生きていける—

「Smile」 / Charlie Chaplinより

 

(Photo / Mami Otsuki)

 

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————どうですか?お一人で作品を作られて見て。

 

Kie 素晴らしい人達と今できる精一杯の作品が出来たんじゃないか、と思っています。

 

————jizueで親交の深い方々とはいえ、すごいメンバーですよね!

 

Kie そうなんです。もともと3人はOvallさん(mabanua、関口シンゴ、Singo Suzuki)というバンドをされていて、Schroeder-Headsさんとも、それぞれ対バンをさせていただく機会があって、個人的にも付き合いがあったんですけど、今回ソロを作る時に「参加して頂けませんか?」って言ったら…

 

————まずOvallが揃うって、皆さん人気者なだけになかなかないですよね。

 

Kie ね!滅多にないと思うので本当に嬉しいです。

 

————曲作りの工程はどのようにされたんですか?

 

Kie 今回はまず私がロジックというPCの音楽ソフトを使って制作し、そのデータをそれをそれぞれの方に送らせてもらいました。

今回のアルバムのコンセプトがsilsil(シルシル)さんの絵なんです。

彼女の絵に一目惚れして「何かするんやったらこの人とやりたいな!」と思ったのが今作を創るきっかけにもなったんです。それで、それぞれの曲にsilsilさんの描く絵をイメージとして勝手にあげてるんです。

 

————曲と一緒に絵を送ったんですか?

 

Kie そうです!silsilさんの過去作ですけど、許可をもらってね。例えば「Forest Orb」という曲は“緑色のホンマに森みたいな中に女性が一人”っていう絵。スパッタリングっていう技法がこの人独特の手法なんですけど、それがすごい好き!関口シンゴくんとはスパッタリングのしぶきを光に見立てて、緑から光が出てるというイメージをシェアして作りました。インストですけどテーマになるものがあるので進めていきやすかったです。

 

————silsil×Kieっていうのがまずあるのでしょうか。

 

Kie 勝手にね(笑)!

 

一同笑

 

————その曲ごとの絵っていうのはCDに入っていたりするんですか?

 

Kie 全然入ってなくて、私のiPhoneに入ってるくらい(笑)。

 

————ワハハ!探す感じだ!これは楽しい。

 

Kie 当てて見てねー(笑)!って感じで。

例えば「Gold Fish」はジャケットのアートワークみたいなピンク色。二つのエネルギーが交わる、みたいなイメージ。二台のピアノでエネルギーが交わって流れになる。Schroeder-Headsさんが男性っていうのもあって、男女のエネルギーが交わるっていうのもある。

 

————すごかったですね。息を飲むようなソロの掛け合い。

 

Kie すごかったです!Schroeder-Headsさんはレコーディングもわざわざ大阪まで来てくださって、さらっと弾いて「OKです」みたいな…音楽やピアノに対する真剣さや姿勢もめっちゃ勉強になりました!

 

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kie ソロをするにあたって「30歳までに作品を出したい」っていうのは漠然と思っていて、その時にタイミングよくお話をいただいたんです。私は自分でガンガン切り開いていけるタイプではないので、何か自分の分岐点には背中を押してくれる人や「こっちだよ!」と手招きをしてくれる人がいる。「じゃあ、目の前のことを一生懸命やります!」って感じでここまできました。今回ソロを作る時、jizueは自分にとってすごく大事なものなのですが、そこではしないことを何だろう?jizueではしないことをしようって考えた時、女性である事や自分の内面的な事を全面的に出したいと思ったんです。

 

————そうなんですよね。まずこのアートワークはjizueでは採用しないであろう、かなり女性らしいインパクトがありますよね。

 

Kie そう!私の似顔絵ではないんですけど、私自身と曲からイメージして描き下ろしてもらいました。

 

————描き下ろしなんですか?

 

Kie そうなんです!しかもいっぱいパターンを出してくださって、その中から選ばせていただきました。

 

————これはKieさんだからだろうなあ。これはね、作品を知っていて、Kieさんに会った人にはわかる。

 

Kie ありがたいです!全然自分一人では頑張れないんで、こういう風に一緒に作ってくれる人がいて本当に心強かったです。

 

————jizueの音は柔らかくて凛々しくて情緒的。そう言われるのは、Kieさんのピアノがとても大きな存在感を持っていらっしゃると思いますが、そこでひとり出てくると如実に表われますね。

 

Kie いや〜、心細いですよね(笑)!jizueのときは他のメンバー3人がしっかり引っ張ってくれているんです。今回ソロをする時に自分で決めたり進めていく場面がすごく沢山あって、大変だった。でも全て終えた時にすごい達成感があって「やれてよかった!」という感じですかね。

 

————なるほど!他の曲もコンセプトとなった話を伺いたいですね。

 

Kie  6曲目「Ranunculus」っていうのは紫の絵で「秘密を共有する」っていうコンセプトだったから、そんな花言葉の「Ranunculus」という花の名前をタイトルにしました。

 

————mabanuaさんの「Jinba」は?

 

Kie 情熱的な赤。「Jinba」っていうのは神馬と書いて京都上賀茂の神様をイメージしているんです。その近くに「神馬堂」っていう有名なお餅やさんもあるんです。

でね、私もともと大学の時にストリートダンスをやっていたんですよ。

 

————それでブラックミュージックを聴かれていたんですね?

 

Kie そう!それがダンスはホンマに向いてなくって(笑)。その時に大好きやった人たちに踊ってもらえたら良いなと思って作った曲です。だからこの曲はちょっと四つ打ちでノリやすい曲になってるんです。

で、神馬堂の息子さんはダンス仲間なんですけど、今でも大活躍されていて、彼にも届けたい気持ちがあります。あとは神の馬だから駆け抜けるみたいなイメージ!

 

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Kie 「Serendipper」は真っ白いキャンパスに色が重なっていくというイメージです。今回のアルバム名「Serendipity」という言葉が「偶然の幸福」という意味で「Serendipper」はそれを探す人という意味なんですね。    ——あの時あの人に出会ってなかったら、あの時jizueに出会ってなかったら、あの時あの人に背中を押してもらってなかったら——そんな偶然がたくさん組み合わさって今回カタチになった、というひとつひとつの偶然をフレーズに見立てて、そのフレーズがいっぱい重なっていってひとつの曲になりました。

 

————そこから間髪入れずに2曲目に突入する運びがたまらないですよね。どうしてこのアルバムに興奮するのか、という理由の一つは一曲目に裸の状態をもってくる生き方。テクニックに対するストイックさにも真摯に向き合われてきた。

 

Kie 多分、もともとクラシック出身なので、すごく技巧的な弾く練習をした時期はあるんですけど、10代の頃はコンクールを目指すようなちょっと苦しい音楽もしてきて、20代でjizueに出会った時にすごく音楽観が変わったんです。その時にピアノに対する付き合い方も変わっていくんやな、と思った。ピアノは自分の存在意義でもあるし存在価値でもあるけど、それが「なくちゃ死んでしまうもの」と「一緒に楽しく生きていければいいよね」っていうスタンスでは全然違うじゃないですか。そうやって内面が変わっていくのと同じで伝えたいことも変わるんだと思うんですよね。多分私はめっちゃ弾きまくるイメージがあると思うんですけど…

 

————確かに(笑)!

 

一同笑

 

Kie 今私は話すのがめっちゃ好きやから、めっちゃ弾きまくるんですよね。20代前半の頃につくった、激情型と言われるテンションが上がって破壊衝動が起こるようなjizueの曲は、今は少し違う気持ちで弾いていたりする。そんな感じで、本当に今伝えたいことを精一杯の言葉で話そうと思ったら結構テクニカルで音数も多くなっちゃいましたね。もしかしたら50、60になっても相変わらずめっちゃ喋っているかもしれないし、いい感じに枯れて言葉数少ないけどめっちゃ説得力があるっていう音楽をしているかもしれないですし、その時の私らしい音楽ができていたらいいですね。

 

————ありのままのKieさんとしての純度が高い曲なのですね。とにかくまずこの最初の2曲はスルーできません。それからOvallさん3人の楽曲は私も大好きなんですけれども…

 

Kie 私もOvallさんは音源から大ファンになったんです。

 

————さすがの方々だから、ピアノメインながら音の重ね方もかなり立体的に設計されていて興味深いですね。

 

Kie そうですね、データが返ってくるのがいつも楽しみで!「そんなんなって返ってくるんや!」って。

 

————意外だったのは?

 

Kie いやあ、本当にそれぞれらしさがありますよね。関口シンゴさんはめっちゃあったかい。メロディだけ残してコード感はガラッと変えてきてくださったんで、ぐっときました。mabanuaさんはmabanuaさんらしい、キラキラポップとアンダーグラウンドさの良いバランス。

 

————乾いたタンバリンとかね!

 

Kie そう!「おもちゃ箱みたいな音にしてほしい」っていうリクエストだったんですけど、まさにそのままになって返ってきた。Shingo Suzukiさんは私の中では一番ハードコアなイメージの人だったんですけど、あったかい中に強さや無機質さがある曲だなって。それぞれにめっちゃ「ああ…!(感激)」ってなりました。

 

————あとはカヴァーが2曲。こちらにはイメージの絵がありますか?

 

Kie  Charaさんの(「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」)はイメージしている青い絵があります。勝手に「テーマにしますね!」ってsilsilさんにLINEしました(笑)。

Charaさんのことも大好きなんです。もともとこのアルバムを全部カバーアルバムにしようかっていう話もあって、その機会に自分が通ってきたルーツを考えんです。そしたら女性アーティストにとても影響されていたことが改めてわかったんです。YUKIさん、Charaさん、UAさん、birdさん…あの時代の女性シンガーさんにめっちゃ影響を受けていて、その中でもCharaさん。今でもめちゃ好きですし、一番お気に入りの曲を選ばせていただきました。

 

————もう一曲はチャップリンの「Smile」。

 

Kie 「Smile」の歌詞を和訳すると素晴らしい歌詞。「もし私が歌を歌えたらこういうことを伝えたいな!」と思っている大好きな曲です。そんな風にカバーの2曲からは曲の力をめっちゃ貰っています。

 

————そういう要素が似合うんですよね、Kieさんには。“スマイル”や“安らぎ”。

 

Kie  “光”とかね。私、今29歳なんですけど、アラサー女子ってめっちゃ悩むじゃないですか。仕事で駆け抜けている人もいれば結婚している人もいるし…。結構みんな分岐点にいて、お互いの優しさで会わへんくなる友達とかもいる。自分の道だとわかっていても人と比べて不安になることもあることもあるし、めっちゃ辛くなる時もある。昼間は自分の芯があって走れていても夜中に何でかわからへんけど辛くて泣きたくなる日もある。しかも何に幸せを置くかって、男性よりも女性の方が難しいと思うんですよね。夜中にほんま辛いってなった時に、このアルバムを聴いてほしいっていう私の気持ちがめっちゃ詰まっています(笑)!!

 

Kie 等身大で、本当に同世代の女子の気持ちに添えるような音楽ができたらいいなって思っています。もちろん男性もですけど(笑)。

 

————やっぱり楽しい女性だなあ!一緒に飲みたいピアニストランキングがあれば堂々1位(笑)。

 

一同笑

 

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————もうツアーも始まっているんですよね。

 

Kie そうですね。昨日からちょうど始まって。

 

————「寂しい!」って、確か…

 

Kie めっちゃ寂しいですよ!心細い!MCも自分でして。jizueは4人とも仲が良くて、いつも修学旅行みたいな感じでワイワイ行っていたのが、今回は社長と二人きり!

 

————そういった人の良さっていう部分もjizueの皆さんの音から滲み出ていますけれども、才能のある音楽家同士で、お互いの良さを引き出しあって対バンされたりコラボされたり…外野で聴いていても噛み合わせの悪い思いをしたことがないし、とっても気持ちがいい。それは素晴らしいことですね。

 

Kie そうなんですよ。人間も音楽も素晴らしい!と思える人と一緒にいろんなことができているって本当に嬉しい!美味しいものを食べたら元気になる、みたいな感じで聴いてもらえたら嬉しいですよね!

 

 

 

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【リリース情報】

アルバム:Serendipity

アーティスト:Kie Katagi

リリース日:2016.02.10

価格:¥1,852(+tax)

Kie Katagi Facebook

https://www.facebook.com/kiekatagi.kyoto/

 jizue Web

http://www.jizue.com/