2016
04.10
リサイズ007_LOV_7481

飯田華子エッセイ 「新宿」02

ARTIST, BLOG

当時はガングロギャル全盛期でしたので、私も髪を染めて化粧をしたかったのですが、規則の厳しい学校だったために叶わず、代わりに金髪のカツラをかぶりました。ギャル服も着たかったのですが、ああした服は華奢にできているので私の立派な体には入らず、それでもなんとか大きめのサイズを探して無理やり着ました。

 

002_LOV_7437

 

流行の厚底ブーツもなかなかサイズの合うものはなく(私の足のサイズは26センチでした)、やっと新宿サブナードで銀色のものを見つけたのですが、今思うとあれはオカマさん用の店だったのではないでしょうか。厚底を履いた私の身長は180センチ近くなりました。パツンパツンの服に金髪のヅラをかぶって銀のブーツで歩く私の姿は、「ギャル」というより仮装でした。でも、それは今だから自分を冷静に客観視して言えることで、当時の私は、

 

「ちょっと変かもしれないけどけっこうイケてるよ!」

と、鏡の前で微笑んで意気揚々と出かけたのです。

 

 

ヘンテコリンな格好の私には、ネオンの街にも居場所はありませんでした。寄ってくるのは歯の抜けた茶色いおじいさんとか(「大久保公園でおまんこしよう」というオファーを再三受けました)、薬物を愛好するホストとか(鼻筋が左右に曲がっていて顎がしゃくれていて、絵本に出てくる「小鬼」といった感じの外見でした)で、どうも自分の人生は物語のようにいかないなぁと思いました。なんで私はこんなにダサいんだろうとミジメな気持ちでした。

 

012_LOV_7515

 

それでもギラつく歌舞伎町のネオンは魅力的でした。この平凡な日々から抜け出せる何かが落ちていそうでした。だから私は何度がっかりしても、パツパツの一張羅に身を包み、金髪のヅラで出かけたのです。もしかしたら今日こそはきっと何かに出会えるかもしれない、と、期待に胸を膨らませて歩き回ったのでした。

 

 

一番街、コマ劇場、区役所通り、バッティングセンター、ラブホテル。

 

 

いつだってすれ違う人たちはみんな私より大人で、目的があって歩いていました。こんな変な格好の小娘なんかには目もくれません。引っかかるのは茶色いジジイや小鬼ホストぐらいです。その他にもまぁ色々あったけれど、なんというか、私が憧れていたような格好いい非行はできませんでした。「不良」になるにも素質が必要なんだと知りました。さんざん期待を煽って置き去りにしていく、夏祭りのようなものが歌舞伎町でした。

 

 

 

そしてある日、「砂漠」に行き着いたのです。

 

 

その日も私は変な格好で物欲しげに街をうろつき、誰にも相手にされないまま虚しくゴールデン街を抜けました。そこから抜弁天のほうへ向かうと我が家です。今日もなんにも起こらなかった、とため息混じりに日清食品を過ぎたところで、私の足は止まりました。

 

突然だだっ広い更地が広がっていたのです。

 

それは不思議な光景でした。周りはビルに囲まれており、車の音も聞こえるのに、そこだけがポッカリ何もないのでした。街の舞台裏みたいでした。茶色い地面がただむき出しになってデーンと続き、先ほどまでのごちゃごちゃした街並みは全てお芝居だったかのようでした。

 

021_LOV_7580

 

ああ、何もない。と思いました。その何もなさが寂しくもあり、どこか安心もしました。感情の持って行き場のない私を、その荒涼とした景色が受け止めてくれるような気がしました。

 

 

以来、歌舞伎町を歩き回ったのちに「砂漠」へ行く、というのが私の定番コースとなりました。歩き疲れ、期待むんむんで施した化粧が崩れたころに「砂漠」へ行き、今日も何もなかったね、と一人タバコをふかしました。そうすると区切りをつけて帰れるのでした。出かけるときも帰るときも一人のままで、何一つドラマなんざ起きていないのだけれど、「そんなものさ」とへへんと笑ってみせられるのでした。