2016
04.17

ワズ『ザ・スウィート・バイ・アンド・バイ』 – 儚いメロディが心に爪を立てる –

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センスのいいジャケットがまず目を引く。薄い線で描かれたイラストの町を、切り抜き加工された写真の男が自転車をこいでいる。見知らぬ町に迷い込んだのか。それとも何かを探しているのか。まっすぐ前を見据えた表情は、どこか高揚しているようにも見える。男の名前は「WAZ(ワズ)」という。ロスを拠点に活動しているシンガーソングライターで、透明感のあるサウンドと繊細な作風が特徴。『ザ・スウィート・バイ・アンド・バイ』は、彼のファースト・アルバムだ。

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 徹夜明けの朝に、このアルバムを聴いたときのことを覚えている。普段だと徹夜をすることはないのだが、このときは小さなトラブルが重なり、いつになく時間に追われていた。僕は足りない集中力を振り絞ってパソコンに向かい、どうにか仕事の目処がついたのは明け方のことだった。カーテンの隙間から薄い光が差し、手のあたりにささやかな影を作った。頭の中はぼんやりとし、かすかに痺れていた。懸念の仕事を終えたことによる静かな興奮もあった。なぜワズの『ザ・スウィート・バイ・アンド・バイ』をかけたのかはわからない。たまたまそばに置いてあったのかもしれない。

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 空は白み、あと少しで日の出を迎えようとしていた。窓を開けると、早朝の透明な空気が僕を包み込んだ。1曲目の「ハードリー・イナフ」が流れてきた。すると、見慣れたはずの景色が、いつもと違って見えた。目に映るすべてが淡い色をしていた。僕は所在を失い、まるで見知らぬ町にいるような気がした。もちろん、そんなはずはないことくらいわかっていた。しかし、その不思議な感覚は、ベッドの中で深い眠りにつくまで残りつづけた。

 昼過ぎに目を覚ますと、すべては元に戻っていた。「なぜあのような錯覚をしたのだろう?」と僕は考えた。慣れない徹夜をしたからというのが、一番妥当な理由に思えた。季節は春で、ちょうど桜の花が散り、枝に新緑の葉が茂り出した頃だった。リモコンの再生ボタンを押すと、1曲目の「ハードリー・イナフ」が流れてきた。僕は机の上に置かれたCDジャケットを手に取った。切り抜き加工された写真の男が、薄い線で描かれたイラストの町を自転車で走っていた。その男の顔はどこか高揚しているように見えた。「ひょっとして…」と僕は思った。「彼もまた見知らぬ町に迷い込んだのかもしれない」と。つまり、彼は僕であり、僕は彼なのだと。ワズの儚いメロディが、僕らを同じ場所へ連れて行ったのではないかと。

 

 考え過ぎなのはわかっていた。でも、音楽の世界ではいろんなことが起こる。だから、この考えが絶対に間違いだとは、誰にも言えないはずなのだ。つまり、徹夜だけのせいだったとは限らない。(冗談まじりに)僕は今もそんな風に思っている。

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【CD情報】

アルバム:『ザ・スウィート・バイ・アンド・バイ』(The Sweet Bye and Bye

アーティスト:ワズ(WAZ

価格:2,286(+税)

ライナーノーツ:宮井 章裕

歌詞対訳:佐藤 幸恵

 

<購入・試聴>

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