2016
04.20
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【INTERVIEW】No Lie-Senseが僕らに語ってくれた、ニッポンのウルトラペイン

ARTIST, INTERVIEW, RELEASE

2015年に音楽家生活45周年を迎え、はちみつぱいは45周年と大忙しながら若手の才能と常に絡み合う、言わずと知れた大物ミュージシャン・鈴木慶一さんと、先月ソロアルバムをリリース、春にも夏にも目玉公演が控えている年中多忙な(果たして、これ以上多忙な音楽家が存在するのだろうか…)KERAさんが、約2年半の時間をかけてアルバム『Japan’s Period』を完成させた。僕は何を隠そう、先月KERAさんのアルバムに大興奮しまくった小僧なのに、またこんなに興奮をして、お調子者と思われてしまうのだろうか…。しょうがないよ。だって、これ(『Japan’s Period』)も超楽しいんだもの。

まず、何が傑作だと思うのか。僕の生まれる遥か昔・昭和40年代を舞台にしながら、現代の歌に聴こえてしまうこと。それから、知らない時代のはずなのに、妙に懐かしくも感じられるところ。無我夢中が故の露骨な高度成長期の黒さと、それとはだいぶ質の違う現代の黒さが、底抜けに明るく描かれた、どこか不条理な音の世界。そういえば、早めのリタイアを余儀なくされて引きこもりがちな、僕の偉大な父は、僕とは違う時代に同じ年齢を過ごし、そしてまだ生きている…僕はこのアルバムを聴いているうちに、無性に父に会いたくなった。

父に会って、父の昔話を少しと音楽の話を少しだけした。ほんの少しの時間だったが、若き僕の過ちを許してくれた父の偏屈な笑みを眺めながら、高度成長期に止むを得ず出てしまった大量の黒きアクをこの作品は「今だから笑って歌えるのだ」と、様々を許しているようにも感じたのだった。

僕は父に思わず『Japan’s Period』を聴いてもらった。KERAさんは僕の憧れ。鈴木慶一さんは父の憧れ。でも『火の玉ボーイ』は今でも僕のiPodのラインナップにいる…そこでは「通過した音楽がズレている父と僕の本作の感触は当然のことながら異なり、それがまた面白いんだ」という、一つの楽しみ方を発見した。それがインタビュー中も起こり、お二人が新鮮に受け止めてくださったことが、また嬉しかった。

因みに、インタビューではお二人とも本当に優しく迎えてくださって、文字を起こしながら、何度も、何度も手を合わせた。僕は大人のくせに、さらに素敵な大人に助けられて、今日も普通に生きている…。

早くこの作品が、お手元に届きますように。そして、少し疎遠になりつつある年の離れた家族や知人と、あるいは上司や部下と、この愉快な音楽で繋がりますように。

 

photo / Hayato Nitta

 

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———お二人の『Japan’s Period』がこの映画『君も出世ができる』につなげてくれました。これは、商業的には成功したとは言えなかったそうですが、スケールといい、楽曲、パフォーマンスといい、日本映画史に残る数少ないシネミュージカル映画の傑作なのですね。

 

KERA 『君も出世ができる』のDVDを買ったの?

 

———はい。私は今回収録されている映画『君も出世ができる』のカバー曲を聴いた後に本家であるこの映画を拝見しました。

 

KERA 良い映画でしょ?

 

———はい。私が生まれる前に、ここまでの壮大なシネミュージカルがあったとは。しかも、声に出して笑えるんです。クライマックスの植木等からサラリーマンの群舞までは特に迫力もあって、ダンスも独創的で興奮しました。でも、この映画のオープニング曲「君も出世ができる」に関しては、今回のアルバムに収録されているものとは全く違う意味合いだったと思えて、ものすごくカルチャーショックを受けたと言いますか…

 

鈴木 私もこれ(『君も出世ができる』)を一昨年観た。

 

———No Lie-Senseの「君も出世ができる」は、茶化した感じが楽しくて聴いていたんですけども、映画の方は…「ガチで出世が正義じゃん…!」この価値観が正直私の中で全く準備されていなかったから、パニックになってしまいました。だから、カバーと言っても全く別の歌にも聞こえてしまったんです。

 

鈴木 うん、そうかもね。

 

———今回はそんな衝撃的なカバー曲から始まる『Japan’s Period』ですが、ロックオペラのような、特にコンセプチュアルな印象を受けました。アルバムを作成するきっかけ自体がこの映画『君も出世ができる』だったんですか?

 

KERA  いや、この映画がキッカケになったわけではないよ。とにかく「セカンドを作ろう。」と言うのがこのアルバムの始まりなんですよ。なんと言ってもファーストアルバムの発売日がレコーディングの初日だったんだからね。

 

鈴木 だいぶ前だよね?

 

KERA 2013年の11月からレコーディングを始めた。初日だったか二日目だったかに僕から提案して「高度成長期を背景にしたアルバムにしよう。」というコンセンサスは取れていたんです。ちょうどこの映画が僕の考える高度成長期のイメージとマッチしていたので、数日後に「こんな曲(君も出世ができる)があるんだけど、カバーしませんか?」と慶一さんとゴンドウトモヒコさんに紹介したんです。その流れで映画『君も出世ができる』の動画を3人で観たんですよね。

 

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———高度成長期の時代は、私が生まれていない時代。鈴木さんは思春期。KERAさんは幼少期でしょうか。

 

KERA この映画が発表されたのは生まれた翌年かな。

 

———1964年ですね。この時代は私の思い出にない時代なので、走り書きで年表を書いて整理していたのですが…(自作の汚い年表を出して)お見せするつもりではなかったので、自分にしか読めない字ばかりで申し訳ないです…。この赤枠の時代ですよね?

 

KERA なにこれ、すごい(笑)。あがた森魚さんとかがいる。

 

鈴木 灰野(敬二)さんがいる(笑)。

 

———私は、このアルバムがきっかけで高度成長期について知ることができたのですが、この時代に描かれていた情景や思想がものすごく独特に映るんです。この時代を駆け抜けて今もなお活躍される鈴木さんにとってこの時代(高度成長期)というのは、どのような思い出として残っていらっしゃるのですか?

 

鈴木 高度成長期はねえ…なんでも壊す!なんでも建てる。なんでも輸出する。

今、都心のマンションの価値がバカ上がりしてるんだよね。一方の地価が下がって一方の地価が上がるっていうのは作為的だけども、こうして全体の地価がぐうっと上がっている感じは、今とあまり変わらないんだけどね。当時は作為なしでみんな行けー!っていう感じで、経済的に上がっていこうとしていたと思うんだよね。でも、それは当然裏もあるよね。作為はあったってことだ。

その裏側を知る良いきっかけになったのが、1964年に開催された東京オリンピック。開催のためにガンガン建物を建てて、モノレールまで創った。当時、僕は東京都内の羽田中学校に通っていたんだけど、中学校からモノレールを創っているところが見えるんだよ。それで、オリンピックギリギリに完成して、走ったのは見たよ。

 

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鈴木 当然、国民全体が明るい未来を見ているんだから「これで日本中にモノレールが張り巡らされるんだ!」と期待を膨らませるわけじゃん?でも、そんなことはなかったってわけだよね。それこそ鉄腕アトム的な、空中に高速道路があったりとか、車が空を飛ぶような、バラ色の未来を漠然と描いていたのが、この後崩されちゃうんだけど、あの頃はみんな、とにかく国の言われるがままだよね。「オリンピックっていうのは良いものなんだなあ!」とか。外国人が大勢日本に来ることなんてなかったしね!

 

KERA そうだね。

 

鈴木 だから、オリンピックで外国人がいっぱい来たのは、戦争が終わった時以来、二回目の事なんじゃないかな、国民にとっては一大事だ。開催された東京オリンピックを観に行ったよ。

それと、私が生まれたのは本当に羽田空港の傍なんだけど、普段、地元の人はみんなステテコと腹巻きで夕涼みに行くの。ステテコが何かはわかるよね?

 

———はい。今で言う部屋着のようなリラックスパンツですね。

 

鈴木 それを着てね、羽田にある東京国際空港に夕涼みに行ったら、国から怒られて禁止になった。

 

KERA 当時人気だったTV番組『シャボン玉ホリデー』の「お呼びでない」のコーナーで植木等がしてた、あの格好ですよね。

 

鈴木 そう。みんなそういう格好で出歩いちゃうわけで、外国人の印象が悪くなるからと、あっという間に禁止されちゃうのを憶えているよ。

 

———へえー!!

 

鈴木 「へえー!」って、知らない世代にとって、当時の話は珍しいものだらけの感覚じゃん?でね、「Welcome To Tokyo」って書かれた、でっかくて煌びやかな看板が街に建ってるの。でも、その煌びやかさは空港側から見たもので、裏は平屋とか4畳半のアパートとかそんなのばっかりが、ただダダ〜って広がってる。あの頃は、そういうのを包み隠しながらやっていた時代だっていう印象があるよね。今回のアルバムは、そういうところに目をつけた。

 

KERA そうですね。「高度成長期」という晴れやかでポジティヴな、表層的なイメージによって隠されていた面や、注目しなかったゾーンを見つめるようなアルバムにできると、それは誰もやっていないんじゃないか?と思ったんだよね。

 

鈴木 結構キケンではあるけどね。

 

———そうですね。この作品は「問題作」とも言われていましたが、聴けば聴くほど「どこまで質問をして良いのか?」と戸惑ってしまいます。

 

一同笑

 

———聴くほどキケンな歌詞が入ってくるんです。例えば「赤坂あたりで 酒 数千杯」とか。

 

KERA 最後から二曲目「未来人街」の歌詞だね。

 

鈴木 僕は当時子供だったから、これはあくまでも憶測なんだけど、その頃の赤坂っていうのは、夜のクラブやキャバレーとかホテルのロビーとかで、政治的謀略が練られていたのではなかろうかと(笑)。

 

KERA 政治家、興行師、ヤクザ…あと、力道山が刺されたのも赤坂のクラブ。

 

———偽札の事件もありませんでした?

 

KERA 偽札の事件は、力道山事件の前だね。警察が偽札を見破れなかった事件でしょ?

 

———そうです!

 

KERA 警察が「偽札をどうやって見分けるのか?」と聞かれて、その答えが「なんとなく聖徳太子に威厳がない」(笑)!警察がそんなこと答える?

 

一同笑

 

5D3_8818 のコピー

 

———偽札事件のことを歌っておられませんでしたか?

 

鈴木 それはないね。

 

———では「床の下に札束うん千万」って偽札事件のことではなかったんですかね?

 

鈴木 まあ、いろんなものは混ざっていますけどね。触れられない…○○事件とかさ。

 

———○○事件?

 

鈴木 まあ、具体的ではないし、怖いから書かないで(笑)。その歌詞のことだけど、いろいろつながりがあって、○○ビルっていうビルの下に金塊が眠ってるんじゃないか?という話を当時ではなく21世紀に入ってから聞いたりする。

 

———そうか!それがこの「床の下に札束うん千万」ですね?

 

鈴木 私の戦後の乏しい知識の中で少しはそれが反映されているんじゃなかろうかと。

 

———歌詞はこれ以上掘り起こさない方が良さそうですね…。ちなみに「床の下に札束うん千万」の後に「そりゃ〜そりゃ〜、参ったな!」と合いの手が入るところが、ファンの私としてはたまらないわけです!11曲目の「チョイナン海岸の運び屋」とは韓国の「チョナン」という土地があったような?

 

鈴木 湘南を何かに言い換えたいと頭をひねっていたら「チョイナン」と浮かんだんだ。だからこれは架空の海岸だよね。でも「チョイナン」ってベトナム語で実際あるんだ(笑)。

 

———昭和40年代をテーマにされていると言うことで、当時を知る人はその時代を思い出して「面白い」「懐かしい」という解釈になるのかもしれないんですけども、全く知らなすぎる私が聴くと、今の日本のことを歌っているように思えてしまったんです。

 

鈴木 だとしたら成功ですね!

 

KERA ふふふ。それは怖いってこと?楽しいってこと?

 

———そうですね、答えになっていないかもしれませんが、どちらとも言えるわけです。イメージとしては、お二人が笑うせえるすまんで、笑いながら指をさして「ダー!」と言ってる感じです。日本列島がビリビリしている。そこにはユーモアもありますよね。

例えば3曲目の「塔と戯れる男二人」から、藤子不二雄Aさんの『戯れ男』も連想できまして、それも一因あると思います。父が教えてくれたんですけども、父は江國香織さんの小説『東京タワー』に登場する、東京タワーがセクシーな女性に見える男性二人がイメージできたとも言っていました。

 

KERA ちょっと待って。お父さんもこのアルバムを聴いたの?

 

———はい、すみません。実は「ちょっとこれ、すごくない?これ、はちみつぱいの鈴木慶一さんとKERAさんが今年出すアルバムなんだよ?しかも今年だよ?」って。

 

KERA お父さんは何歳?

 

———父は確か58歳です。

 

KERA 江國香織さんの小説を読んでいるんだね。

 

———父は一日中本を読んだり小説を書いたりしておりまして、私にいろんなことを教えてくれます。KERAさんのお芝居に付き合ってくれたのも父でした。若い頃はギターもやっており、当時の鈴木慶一さんのことを父から聞きました。父曰く、フォーク全盛期だった当時、はちみつぱいの存在は、音楽通にしかわからない最先端の音楽。自分のことで精一杯だった時代でもあったから、最先端すぎて、父には遠すぎる存在だったそうです。そんな父は「塔と戯れる男二人」を聞いて『東京タワー』も連想したと。

 

KERA あの小説は少し前に出版されたリリー・フランキーの方の『東京タワー』の陰に隠されてしまったところはあったよね。

 

———歌中にあるセリフの引用は東宝ドラマの『若者たち』からですか?「トンチキ野郎!」って聞き覚えがあるのですが…

 

KERA あの曲(「塔と戯れる男二人」)のセリフ部分は創作よ。

 

———そうなんですか?

 

KERA もし、他の作品に出てくるセリフと同じだとしたら、それは偶然ですよ。「『若者たち』って、東宝の、田中邦衛さんとかのでしょ?

 

鈴木 「君の〜行く〜道は〜」。誰でも僕らの世代だったら歌える歌。

 

KERA そのまま取ったと思ったの?あれは僕と慶一さんと緒川たまきです。

 

———これはちょっと…たまげました。実は、それが最後までわからなくて、さっきまで悩んでいたんです。

 

KERA いいと思うよ。それも狙いだからね。

 

鈴木 今録ってんだけど、作品から64年とかの匂いがすれば良いと思ってね。

 

———まだ放心しています…どうやって録られたのですかね…。

 

KERA わはは!「どうやって」もなにも普通に録って、今は色々できるんだよ!

 

鈴木 簡単に言うとマイクで録った後に、古い音にできる装置があるとするじゃない?そんな風に作る。まあ、完全に古い音にはならないけどね。録音物っていうのは、その年代と空気が閉じ込められている。なかなかそのとおりにはならないもんだね。

 

———これは書かないで、同じアホを作りたいです…。

 

KERA CDのクレジットを見たらわかっちゃうけどね。少なくとも緒川さんの声は僕と慶一さんのどちらでもないし。。

 

鈴木 あの曲の中のセリフで、最初に怒鳴ってんのは俺だよ。

 

———「引っ込んでろ!」ですね?

 

KERA あの部分はセリフをちょっと変えて、録り直してもらいましたね。

 

鈴木 そう。(KERAは)演出家だから、ああいう細かいところにはものすごく時間をかけるんです。

 

———「山下 高橋」というフレーズが「塔と戯れる男二人」で頻繁に聴かれて非常に面白かったんですけど、7曲めのタイトルが「オペラ 山下高橋」。

 

鈴木 これは、諸々曲を作ってる最中にKERAが作った歌詞なんだけど、ちょっとこの歌詞を使いたくなっちゃって、今度は私が別のところでも使っちゃった。作っていく段階にはそういうやりとりがあるんだよ。お互いが使った言葉を使っていくことによって、自然とコンセプトアルバムみたいになっていくんだよね。

 

———歌詞はKERAさんが先に書いたんですか?

 

KERA うん、僕が先に書いた。

 

鈴木 「オペラ 山下高橋」は二人で歌うオペラなんで、主人公はどうしようかと考えたら、「これは山下・高橋しかいないでしょう!」っていう話になった。

 

KERA 曲より先に詞っていうのはほとんどないよね。曲があって、何度も聴きながら詞ができる。

 

鈴木 一番良い方法は、こうして互いの詞を抜いていく方法だね。

 

KERA 僕と慶一さんちょうどは一回り違うから、高度成長期っていっても、僕はほとんど記憶にないんだよね。なんとなく赤ん坊の頃オリンピックで大人達が騒いでたような気がする。もしかしたら後で無意識のうちに自分の中で記憶操作されているのかもしれないしね。

 

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KERA 一方、オリンピックの年に思春期だった慶一さんは多感な時期を過ごされているわけですよ。高度成長期に対する興味はあっても人生の記憶としてはないから、僕は歌詞を書くとっかかりとして、まず「高度成長期」というワードを検索して、そこからチョイスしていった。でも、だんだんお互いで歌詞を重ねていくと「あ、力道山はもう取られた!」とか、そういうのもあるんで、お互いの出方を見ながら、なるべく被らないようにしたんだよね(笑)。

 

鈴木 自分が被らないように、すげー急いで歌詞を作るの(笑)!後ね、僕はせっかく劇作家(KERA)と一緒にユニットやってるから、たかが3分の曲でも1本の映画や芝居くらいの中身の濃さにしたいとも思って歌詞を創っているよ。

 

KERA 慶一さんの詞が先に3曲くらい出来てきて、それに僕は圧倒されたんですよ!最初は「ミュータント集団就職」だったかな。この曲の詩はは一回も繰り返しがないんだよね。ファーストアルバム(『First Suicide Note』)の延長みたいな感じでレコーディングもつながっていたし、一枚目の轍を踏んだものが出来てきても「それがNo Lie-Senseなんだから」って思う事も出来るところが、慶一さんはいきなり全然違う切り込み方をしてきたからね。「それじゃ駄目なんだ!」と言われているような気持ちになって、まあ、奮起しましたよね。

 

鈴木 まあね、1枚目とは全然違うよね。ファーストアルバムの発売日に始めたレコーディングも、内容的につながってはいるんだけど、2年半くらいかけて点、点、とやっていることが結果的に良かったよね。スタジオに長い間いたわけじゃなくて、点在してるから、いつも忘れちゃうんだよ(笑)。久しぶりに2人で集まって録音を始めると「どんなのを作っていたんだっけなあ?」といった具合にね。でも、忘れちゃうからいつも新鮮ではある。

 

KERA そう、本当に忘れちゃう。このアルバムができるまでの約2年半、僕は何本も舞台を作ったし、連ドラも脚本・監督したし・・・、お互いでソロアルバムも発表しているしね。

 

———本当ですよね!息をつく間もない!

 

鈴木 でも、それが良いんでしょうね。(KERAは)私の10倍は忙しいから、No-Lie Senseの作品作りに関しては、KERAの良いタイミングが合えば録音するといった感じ。お芝居って、公演日も決まってるし、大勢の出演者やスタッフのスケジュールをズラすわけにはいかないから、揺るぎないスケジュールでしょ?それに比べて音楽、特にレコーディングは割とズラせる。まあ、ライヴを決めちゃったらズラせないけどね。

 

———お二人は特別なご関係に見えます。

 

KERA 僕は緒川(たまき)さんにいつも「慶一さんには感謝しなきゃいけない。」と言われています。こんなね、専業ミュージシャンでもない人間をパートナーにしてね、他の人じゃ作りたくても作れないような独自の音楽を…。「慶一さんとじゃなきゃやってくれる人もいないし、作り上げることもできないでしょ?本当に感謝しなきゃね。」って…妙なタイミングで言うんだよ(笑)。

 

鈴木  アッハハ!

 

KERA でも、たしかにそうだなあ、と思う。

 

———本当にお二人以外、本当に誰にも作れない世界なんですよね。

 

鈴木 この二人じゃないとできないんじゃない?なんだろうなあ。

 

KERA (テーブルに置かれた秩父山バンドのEP『恋のラヴ・オペレーション』のEPを手に取りながら)ちょうど2、3日前にこれ(秩父山バンド)の漫画を描いている田中圭一さんという漫画家が、「僕の描いた漫画が80年代に初めてアニメ化された時、作曲・作詞・編曲が鈴木慶一さんとKERAという、とんでもないメンツだったんだ!」と、ツイッターでつぶやいていたのを見つけたところでしたよ。

 

鈴木 あのツイートは本人なの?

 

KERA  うん。

 

鈴木 これは30年前だね。

 

———この頃と今の「DEAD OR ARIVE」を聴き比べても、スネークマンショーにもないような、カラッとした特別なユーモアに溢れているような気がします。

 

鈴木 KERAとは、21世紀入ってから芝居を観に行ったりライヴを観に行ったりしたけどね、これ以前はそんなに付き合いはなかったよね。

 

KERA 疎遠でしたよ(笑)。

 

鈴木 でも、ムーンライダーズがいたレコード会社に必ず有頂天が…

 

KERA 追っかけてくる(笑)!

 

鈴木 で、またレコード会社を移籍すると有頂天が同じレコード会社にいる。

 

KERA 途中でロングバケーションになったけど、ロンバケになってもまだ同じレコード会社にいる。(ポニー)キャニオン、東芝、ファンハウス…。 ずっと一年遅れくらいでね。

 

———ずっと傍にはいらっしゃったんですね。

 

鈴木 傍にはいたね。

 

———今作最後の曲「チョイナン海岸の運び屋」がT.E.N.TレーベルでKERAさんが参加された「俺の背中に火をつけろ」を思い出しました。

 

KERA いとうせいこうさんの『建設的』?

 

———はい。よく考えたら、そのレコードのレーベルは鈴木さんのいらしたレーベルでしたなあ、と思い出しまして。

 

鈴木 でもあれ(『建設的』)は、私たちが活動休止に入る頃の作品だ。

 

KERA  あれ?そうだっけ?T.E.N.Tってさ、慶一さんと幸宏さんがいなくなってもずっと続いていたの?

 

鈴木 うん、そのまま続いてたよ。作った本人達(鈴木慶一・高橋幸宏)は抜けちゃったんだけど、せっかく作ったレーベルだからと、レーベルだけ残ったんだよ。

 

KERA これはあくまでも想像だけども、あの頃は、慶一さんももっとピリピリしてたし、俺も若くて生意気だった。先輩だろうが関係なかったからね「何がムーンライダーズだ!」って感じでしたよ(笑)。

 

一同笑

 

KERA 内心、羨ましくてたまらなかったんですけどね。新人だった有頂天に較べて、ムーンライダーズは贅沢してたでしょ「いっぱいレコーディングの時間かけてもらえていいなあ。」とか「こんなに凝ったPV撮れていいなあ。」とかね。それは噯気にも出さなかったけど、尖っていたね。

 

鈴木 出会いの最初はここ(ポニーキャニオン)だもんね。その後に、おっきな事があるんだよ。東芝に移る直前の、ヤマアラシ。

 

KERA はいはい。『ヤマアラシとその他の変種』っていうアルバムがあって、乱暴に言うとスネークマンショーみたいなアルバムですね。コントと音楽のコンピレーション。やたら人が参加していて、スネークマンショーよりずっとバブリーな感じ(笑)!慶一さんにはそれのサウンドプロデュースと、SEとか、いわゆる音効(音響効果)さんの仕事をして頂いたんですよ。これには膨大な時間をかけましたねぇ・・・。

 

鈴木 あれはバブリーだったなあ。私は音効さんになりたかったんで、こんなに楽しい仕事はなかった!

 

KERA それが91年かな?

 

鈴木 いや、90年くらいじゃない?91年はムーンライダーズがアルバム出したから、それ以前だ。

 

KERA そうか。『最期の晩餐』(ムーンライダーズ12枚目のアルバム)より前か!僕は有頂天のラストアルバム『でっかち』まったくと同時期に『ヤマアラシとその他の変種』を録ってたんですよ。有頂天そっちのけで(笑)。僕は全てに全力だから、そっちのけと言ったら嘘ですけど(笑)。

 

鈴木 90年代は付き合いが空いたね。

 

KERA ナイロン100℃『アリス・イン・アンダーグラウンド』っていうお芝居でキャブ・キャロウェイの「Minnie the Moocher((ミニー・ザ・ムーチャー)」を自分の好きな歌詞で歌ってもらった。その後ムーンライダーズ11枚目のアルバム『DON’T TRUST OVER THIRTY』をタイトルにしたミュージカルをやりまして。

 

鈴木 21世紀になっちゃうね、もう。

 

KERA これはホリプロとナイロン100℃のタイアップ公演で、ユースケ・サンタマリアの初舞台。この作品では慶一さんが音楽監督をしてくれた。バンドには鈴木博文さん(鈴木慶一さんの実弟、ムーンライダーズメンバー)にも入っていただいて、劇中歌はムーンライダーズの楽曲、出演もしていたたまの曲と、オリジナルの曲を混ぜこぜにして・・・。考えてみると妙な公演でしたね、あれも。ムーンライダーズのメンバーが当時あまり顧みなかった曲ばかり…『カメラ=万年筆』期、ニューウェーヴ期の楽曲ばかりを敢えてチョイスして(笑)、歌詞を劇中に沿ってアレンジした。その後、バンドのゲストに来て歌ってもらったことはありますけど、ここから今のユニットNo Lie-Sense結成につながったような気がするんですよね。

 

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———ずっと気になっていたんですけれど…No Lie-Senseというネーミングが、何重にも洒落ていて、すごいネーミングだなあ、と思っていました。これはどのように付けられたんですか?

 

鈴木 ポーン!とKERAがつけた。

 

KERA 「二人とも免許持っていませんよね?」って慶一さんに聞いたら

 

鈴木 「うん、持ってないよ。ノーライセンスだね。」って。でも、そのまんまじゃつまらないから、ちょっと字を変えて、「嘘つくセンスなし」。

 

KERA 二人の共通点ってなんだろうなあ?と考えて「そうだ!二人とも免許持ってない」。

 

鈴木 助手席の帝王だからね。No Lie-Senseをやろうっていうきっかけになったのは、喫煙所だね。

 

KERA タバコを吸いながら。蜷川幸雄さんの舞台『四谷怪談』の時でしたっけ?このお芝居の音楽を慶一さんが担当されていたのを僕が観に行った時に、喫煙所でタバコを吸いながら「ユニットやりませんか?」と誘った。

 

鈴木 喫煙所は隙があるからね(笑)。

 

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KERA そうだ!こうして話してたら色々思い出してきた。確か蜷川さんの舞台の前に、クレイジーキャッツのリスペクトライヴがあったんだね。下町コメディー映画祭っていう、いとうせいこうさんがキュレーターをやっているイベントで、これには毎年テーマがあるんですよ。例えば「ドリフターズリスペクト」とか。それで、クレイジーキャッツさんのリスペクトの時に…

 

鈴木 谷啓さんだ。突然亡くなっちゃってね…

 

KERA そうそう、息子さんが代わりに表彰式にこられた。その時に僕もゲストで参加させてもらったりしたこともあった。無理矢理ツイッターのDMに「僕も出ていいですか?クレイジーキャッツの特集なのに僕がどこにもいないなんて、考えられない!」って無茶苦茶な言い分で押しかけた(笑)!

 

一同笑

 

———ずっとずっと、お二人はご縁があったんですね。

 

鈴木 うん。実際KERAと音楽を一緒に作ってみると、すんなりいきますよ。主に私が楽器を弾いたりしていると、どうしても出てしまうところがあるじゃない?

 

———手癖ですか?

 

鈴木 手癖です。要するに、私からはロック的なるものが出ちゃう。No Lie-Senseは、非ロック的なるものを目標に置いているんで「この部分はロック的だから変えよう」となる。例えば、フレーズの着地点を半音変えたりとかね。

 

KERA コードとかね。

 

鈴木 だから、この音楽はこの二人のコラボじゃないとできないんだよ。私は色々なアーティスト達とコラボをやっていますが、No Lie-Senseっていうのは「無法地帯」というか、なんていうんだろうなあ…まあ「無法地帯」が一番、表現としてはいいかな。要するに「何やってもいいぞ!」っていう感じがある。例えば、僕は高橋幸宏とビートニクスというユニットをやっているけど、これは無法地帯じゃなくて、どちらかというと「サンクチュアリ」に近い。「このエリアのものをこのエリアの中で作ろう」というのが重要である。ビートニクスの場合はその方が良いと思うんだけど、このNo Lie-Senseはまさにアウトローな感じだから良いんだよね。

 

KERA 無法者なんですよ、二人とも(笑)!

 

———無法地帯だから聴こえる驚きのサウンドも。耳を澄ますほどに装飾音だけではなく、例えばリズムを刻む音にもワクワクしますね。

 

鈴木 使っている楽器はおもちゃだったりするからね。

 

これ(「オペラ 山下高橋」)では…木魚?

 

鈴木 そこらへんにあるもの。

 

KERA 木魚は使ってないけどね(笑)。

 

鈴木 ウッドブロックね。

 

———参加されている方が皆さん変わった楽器を愛されている方々というのもあって、音自体とても純粋に楽しめました。

 

鈴木 これはね、ゴンドウトモヒコ君のスタジオに、沢山の楽器があるんだよ。

 

KERA 慶一さんのソロアルバム『Records and Memories』のジャケットは、ゴンドウさんのスタジオで撮ったものだよ。

 

———あそこですか!おもちゃ箱をひっくり返したようなところですね。

 

鈴木 そう!「あら?こんなところに、ウクレレが。」と言った具合だよ。その辺にある楽器を弾きながら、曲が出来てくるイメージですよね。

それでKERAは、家で録音したものを持ってくるんだけど、それが結構、途切れとぎれだったりするんだよ。だから、それをもう一回録音して使いつつ、その場で思いついた事を取り入れながら、何かに発展させていく。私もそんなに準備しないし、だいたい曲の大元はKERAと私が鼻歌で持ってくる感じだよ。それを「こんなコードで」って肉付けしていくんです。

 

———今回、スティールギターの音が…

 

KERA 高田漣さんね。

 

———そうですね。今回、私にはスティールギターが高度成長期というのか、昭和感が増して味わい深く聴こえたんです。

 

KERA あ、そう!

 

鈴木 何かなあ?

 

KERA あれじゃないの?ベンチャーズとかのサーフサウンドを想起させるんじゃない?ベンチャーズはスティールギターはいないけど、常磐ハワイアン・センターとかの感じじゃない?

 

鈴木 スパイダーズの初期がペダルスティールが引っ張っていったりするんだよ。グループサウンズってあったでしょ?その手前にカントリーアンドウエスタンブームっていうのがあって、それはペダルスティールを絶対使うの。その後にロカビリーブームっていうのがあって…それは、ロックンロールにつながるんだよね。だから、ペダルスティールってロックンロール初期の頃のリードギターの代わりなったりする。不思議なもんだよね。ペダルスティールは難しい楽器だけどね。

 

———私の世代が聴くと、ベンチャーズと、あとはチェッカーズも思い出します。

 

KERA チェッカーズ?

 

鈴木 そうか、オールディーズだからね。

 

KERA ああ、「チョイナン海岸の運び屋」の曲調がね。世代が違うとオールディーズじゃなくて、チェッカーズなんだね。

 

鈴木 チェッカーズはオールディーズっぽい音楽なんだけどね。

 

———そうですね。私の場合は、例えばチェッカーズが昔懐かしき昭和の音楽のイメージになってしまいますね。この作品を聴きながら、自分の記憶や想像の中の「昭和感」を掻き立てるんです。本当に面白いし、ありがたいですね。

 

 

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【リリース情報】

アルバム:Japan’s Period

アーティスト:No Lie-Sense

リリース日:2016.04.20

価格:¥3,000(+tax)

 

《収録曲》

01:君も出世ができる(映画『君も出世ができる』カバー曲)

02:ようこそテレヴィジョン

03:塔と戯れる男二人

04:ミュータント集団就職(突然変異でこの世は一回り)

05:労働者たち

06:困ったの花

07:オペラ 山下高橋(悲しき靴音 いや、ゆゆしき死の音)

08:大東京は大食堂

09:ウルトラペイン

10:未来人街

11:チョイナン海岸の運び屋

 

 

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