2016
04.25
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飯田華子エッセイ 「新宿」03

ARTIST, BLOG

最後に「砂漠」へ行ったのは元旦です。

高二の冬休み、学校の友達同士で年越しをしました。会場はそのなかの一人の家で、年が明けてひとしきり騒いだあと、話題は好きな男の子と受験の話になり、どちらも興味の持てなかった私は電車の動き始めたあたりで「そろそろ帰る」と席を立ちました。狭い空間で自分の青春が腐っていくような気がして、酸欠状態に陥ったのです。

そんなわけですから、友人宅を出てもまっすぐ家に帰りたくありませんでした。しかし他に行くところもありません。それでふと、歌舞伎町の様子を見に行ったのです。

 

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元旦の早朝、歌舞伎町はまったく人気がありませんでした。大量のゴミが路上にあふれ、カラスがそれをついばんでいました。ガランとしていて夢の跡のようでした。「全部嘘でした」と言われたような感じでした。妙に落ち着きました。

 

私は誰もいないコマ劇前や大久保病院の脇(たちんぼ通り)を歩いて異常がないのを確かめたのち(異常があったら巻き込まれたかったのですが)、いつものごとく「砂漠」へ向かいました。

 

途中、古びた自動販売機を見つけました。「アタリが出たらもう一本」という、当時ですらもう珍しいタイプの自動販売機でしたが、「よし、今年の運試しに!」とお茶を買ってみました。

 

 

外れました。

 

お茶の缶を手に「砂漠」についた私は、なんだかもっともっと「荒涼」を味わいたい気分だわ、と思い、初めて「立ち入り禁止」のロープをくぐって中へ入りました(それまでは目の前で眺めているだけだったのです)。掘り返された土に足を取られつつ、強気に真ん中まで歩いて行きました。

 

 

 

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「砂漠」の真ん中で空を見ると、「ものすごく広い!」と思いました。周りを囲むビルやラブホテルがずっと遠くに見えました。私は「ものすごく一人」でした。鳥の群れが一列に飛んでいくのが見えました。座り込んで眺め、タバコを吸いました。口が渇いたので先ほど買ったお茶を一口飲んだら、妙な味がして吐き出しました。まじまじと缶を見ると賞味期限は二年前でした。

 

 

なんだかグレそこなってしまったなぁ、と思いながら、もう一本タバコを吸いました。とりあえずタバコだけは私の獲得できたグレアイテムでした。

やがて体が冷えてきて眠くなり、なんとなく気が済んだので帰りました。

 

「砂漠」があったのは二年ぐらいのことだったと思います。

この元旦以降、私は歌舞伎町から足が遠のいてしまいました。受験勉強が忙しくなったのも原因でしょうか。結局のところ私は臆病だったので、周りがだんだん受験モードになるとその雰囲気に同調しました。親や学校という揺り籠から抜け出すことを恐れ、予備校に通って一生懸命勉強しちゃったのでした。

 

大学生になってから久々にこの場所に行ってみると、すでにビルが建設されていました。その頃にはもうグレる必要がなくなっていたので、私は砂漠でタバコをふかさなくても大丈夫でした。だから「ああ、なくなっちゃんだな」とだけ思いました。それっきりです。

 

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それでも私が「新宿」と聞いて一番に思い浮かべるのはあの「砂漠」です。

新宿ではその後もバイトをしたりライブをしたりしましたし、今でもよく飲みに行きます。でも、それだったら渋谷も池袋も高円寺も同じなのに、新宿だけが私にとって今も圧倒的に特別な街なのは、あの「砂漠」があったからなのだと思います。

(おしまい)

 

photo / Mami Otsuki