2016
08.02
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【Interview】シュリスペイロフ、最速のフルアルバムは“極楽のあまり風”に乗せて

INTERVIEW, RELEASE, VIDEO

そういえばいつか、劇作家の北村想が「本当に強い人とは“自分は弱い”と言える人だ」と言ったような…アルバム『あまりかぜ』を聴いていたら、そんなことをふと思い出した。

 

さて、アルバムタイトルの『あまりかぜ』と聞いて、中務哲郎氏の著書『極楽のあまり風』を思い出す人も多いのだろうか。夏の暑い日に肌を掠る涼しげな西風が、極楽から吹く風のようだと例えられた言葉だというが、その感覚に頷けるのもバンドの持つセンスの賜物だろう。

フェス成熟期にある今夏——ビール片手にロックと踊って付き合うもまた乙なものだけども、僕はとにかくこの“風(『あまりかぜ』)”に静かに触れていたい。

足場の固い往年のミドルチューンで響かせる“宇宙(「アパートメントの宇宙」)”に想いを巡らせ、毒をふんだんに盛り込んで疾走するは「かじられている」。その後 国境の南・太陽の西の方面から微かに吹かれる“性”と“青”の風「あまりかぜ」を浴びてから、クライマックスにはバンドにとっても不朽の名曲となろう「カノン」が僕らを迎える。この「カノン」に至っては別格で、ロストジェネレーションが描くスガシカオ以来の純文学的ソングライティング術は見事としか言いようがなく、映し出す世界は一貫して脆く繊細で、且つそれ以上に凛々しい。この曲だけでバンド、或いは誰かの人生を照らすだけのエネルギーを持っていると言ってもいいと思った。

 

シュリスペイロフに“ホット”や“キャッチー”も必要ない。僕はこの芳醇な語群と振動が真摯に刻まれた本物のロックを今、日本語で味わえることに素直に感謝して、このセリフで締めたいと思う。

 

この先の人生で一体どんな事があるかわからないけれど 愛しき(シュリスペイロフの)歌の数々よ どうか僕を守りたまえ(映画「青春デンデケデケデケ」より)———

 

photo / 田中サユカ

 

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——いろいろと伺いたいことがたくさんあるのですが、まず今回の作品制作は自分で思い立ったことでしたか?それとも「そろそろ作れば?」と誰かに言われたとか?

 

宮本 1年に1回はアルバムを出したくて。

 

——そうは言っても、今まで全然1年に1回のペースで出されたことはなかったじゃないですか。

 

宮本 そうなんですよ(笑)。

 

——どうして1年に1回出そうと思ったんですか?

 

宮本 僕らが(北海道から)東京に出てきたのは、やっぱり音楽をやりたいからなので、アルバムを出さないとほとんど意味がない…そう思ったからなんです。

 

——それはあくまでもフルアルバム?ミニアルバムではなくて?

 

宮本 ミニアルバムを出す意味が僕にはあまりわからなくて。だから、出すならフルアルバムかなあ。

 

——東京に出てきたキッカケを訊いてもいいですか?

 

宮本 札幌でやっていた時のレーベルがなくなる事になって、次にどうしようか考えていたんです。なんとなくメンバーと「さわおさん(ピロウズ)のレーベルだったら自由にやらせてくれるんじゃないか?」と話していたタイミングで、ちょうどピロウズが札幌に来たので、さわおさんにお願いした。実際にレーベルに入れてもらうようにお願いした時は、割と軽い感じで決まりましたね。

 

——軽い感じでも、実際は凄い事ですけどね。これを読んで誤解されては困る、誰でも入れるレーベルじゃない。

 

宮本 そうですね。

 

——今まではマイペースに活動されていたイメージがありますけれども、それは勝手なイメージですか?

 

宮本 そうですね。本当はもうちょっとバリバリやりたかったんですけど、あんまり進まなかったんですけどね。なんかこう…色々と下手だったとも思うんですけど…以前の僕は、アルバムに対する捉え方がカチコチだったと思うんですよね。それがさわおさんと話していたら少し解れて、作品が作れるようになった感じですね。

 

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今のレーベルに入る前からさわおさんとはお話しさせていただいていたんですけど、その時に「君ら、(アルバムを)作るのが遅いよ。」って言われていたんです。僕は全部100点のものを作ろうとしていたんですけど「そうじゃなくて、自分の中で100点じゃないものも宮本君のファンは聴きたいと思うよ。」と言ってくれた。「なるほどなあ〜、肩の力を抜いたものも集めてこそのアルバムなのかもなあ。」と。

 

——東京に来てからは、楽曲制作にあたって新しい方法に挑戦されているとか。

 

宮本 そうですね。以前までは自宅でデモを作って、合わせていたんですけど、もうちょっとざっくりと「こんな感じの曲が出来たから、合わせてみようよ。」って、ドラムなんかも僕が指示をしないで、なんとなく合わせて、良かったら採用する方法をとった。それで早く曲が作れる流れが出来たんですよね。

 

——それは自分達には合っている?

 

宮本 そうですね。細かいところまできっちりやっていくと、本当に出来上がりが遅くなっちゃうバンドなので、“楽しさ”とか、(現場の)雰囲気を大事にしたほうがウチのバンドには合っていたのかな、と思いましたね。

 

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今まではストイックになりがちだったんです。アルバムを作るとなると構えちゃって、なかなか前に進めなかったのが、もうちょい気を楽にして「こんか感じに出来たなあ」とか「次はこういう感じにしようかなあ」とか、自然に作れるようになったかな。

 

——タイトルが『あまりかぜ』ですが、同名の曲も収録されていますね。どちらが先に決まりましたか?

 

宮本 曲ですね。とにかく「あまりかぜ」という言葉が気に入ったので、まず「あまりかぜ」という曲を作りました。その後にアルバムのタイトルにしてもいいなあ、と思った。

 

——歌詞には「極楽のあまりかぜ」という言葉を使われていますね。この言葉自体は幾つかの意味を持っていると思うんですけども、それは意識されたんですか?

 

宮本 意味はそこまで意識していないかもしれないですね。言葉の持つ雰囲気としては爽やかさや涼しげな印象だと思うんですけど、そう言った「あまりかぜ」が持つ雰囲気を曲にしている感じかな。「あまりかぜ」の語感がすごく良かったんですよね。

 

——今回、作品を作るにあたって「あまりかぜ」という言葉にすごく助けられたと言っていましたけども。

 

宮本 「あまりかぜ」という言葉自体、他のアーティストが使っているのを聞いたこともないし、そう言う新鮮な言葉を使って「あまりかぜ」という曲を完成させられたのがすごく自信につながったというか…自分のイメージする「あまりかぜ」を曲にできたことに満足できた。レコーディングも今まで録った中で一番良く歌えたのが合った。

 

——重ねて録られた、あの印象的なギターは?

 

宮本 サポートのギターの子が重ねてくれたんですけど、ちょっと体調を崩していて札幌にいたから、曲のデータだけ送ってあって、僕らが札幌にライヴで来た時に「こんなギターを考えたんです。」って、リハに入り込んで弾き出したんです。

最初は何を弾いているのかがさっぱり分からなかったんですけど、だんだん意図を感じるようになった。胸を触るような歌詞が出てくるんですけど、そんなちょっとしたエロスのようなものをあのギターに感じて、歌詞もギターに影響を受けて変えたりしたので…あのギターは重要な要素だったなあ。

 

——私はまず2曲目「かじられている」で掴まれましたが、この曲は今回のリード曲なんですね。

 

宮本 これは前のアルバム『その周辺』でも「空中庭園」をメインにしていたし、本来僕らのリード曲といえば1曲めの「アパートメントの宇宙」なんだけど、今回は僕らの違う要素を伝えた方が良いんじゃない?ということで、2曲目「かじられている」になりましたね。

こういう雰囲気の曲が今までなかったわけじゃないんですけど、今回は「こういう曲もあるよ」と伝える目的でもあります。

 

 

——あの詞の感じも私のイメージしている“宮本さん”ですけれどもね。

 

宮本 メロディができてから、それに言葉を自然に当てはめていった曲ですね。煮詰めずに思ったイメージを並べていった感じかな。

東京に来た時、街を眺めて「汚いな」と思ったりしたんですよね。後は、ちょっと前に原発とか爆発があったりした。それで周りを見た時に、なんとなくみんな調子が悪そうな感じで、なんとなくみんながかじられながら生きているんじゃないかな…そう思って書いた、ちょっと嫌な感じの歌詞ですね。

でも、かじられているから生きている実感もあるのかなあ…と思えるのかも知れないですね。

 

——歌詞とメロディは同時にできますか?

 

宮本 そうですね。ワンフレーズ同時にできる感じなんで、そこから広げていきます。それで、自分がこれに対してどう思っているのかをゆっくり探っていく感じですね。

 

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——“こういうところもあるよ”といえば、5曲目の「ダンスホールへ」も新鮮な印象ですよ。

 

宮本 そうですね。あれはサポートの子の体調を考えた時に全部ギターを弾くのは無理だろうと思って、ギターの代わりにガヤと言うか…。ほとんどiPhoneで歩きながら録って、良いところを切り取って。

 

——あれを聴くと、シュリスペイロフが東京の歌を歌っているなあ…と思いますね。「新宿」っていうのはわざと?

 

宮本 わざと。あそこだけでっかくして。本当はあのアナウンスは「新宿3丁目」なんですけどね。

 

——「3丁目」を切っちゃった!?

 

宮本 そう(笑)。歌詞が女の子の歌詞なので、何となくせわしない日常を送っている人をイメージして作った曲なんですけど、サンプルを録っている中で偶然「新宿」というワードが録れた。一番象徴的な場所が新宿だったから、切ったものを採用したんですよね。

あと、たまたま録れた女の子の笑い声も象徴的だったので使いました。

女の子が二人で歩いて話しているところをiPhoneを持ちながらこうやって後ろを歩いて…

 

——ストーカーじゃないですか(笑)。

 

宮本 ハハハ!「じゃーねー!」がすごくよかったですね。

 

——東京に住んでいると、色々な刺激をダイレクトに受けるんじゃないですか?そのあたりの情報や感情の処理はどのように?

 

宮本 札幌にいる時にテレビで見る東京の事件とかが、当たり前ですけど東京に居ると近くで起こっていることになる。その距離感ですかね…実感がなかったものが少し近づいて実感が持てる感覚が興味深いですね。

 

——確かに。音楽活動的には?

 

宮本 対バン相手の年齢が若い人が多い。それは札幌でやっていた時も一緒だったんですけど…ていうか、東京で友達になったバンドとかもいないんですよね。影響を受けたっていうのもそんなにないんだよなあ〜。

 

——影響を受けるなら、文学作品方面が多い?

 

宮本 そうですね。あとは、東京には本当にいろんな人がいるから、そういった広い範囲で無意識に影響を受けているのかもしれないですね。

 

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——「なんで自分が生きているのか」と歌詞にもありますけども、そういった哲学的なことを実際に考えたりもしますか?

 

宮本 そうですね。でも、考えてもよくわからないことですよね。

例えば「かじられている」の最初のリフとかも、なんでこれが良いのか、なんでこんなことを弾いているのか…とかいう理由もないので、これもまた興味深い感じで…。だから最近は「何の意味があるんだろう?」っていうことを考えますね。ギターを弾いたり、歌うこととか。…まあ、無駄なものばかりが周りに溢れている方が楽しいので、そういうことかな、とか。

 

——それはすごく訊きたかったことです。

宮本さんの描く曲は、虚無の中にあっても、静かで力強い感触が得られるんです。それで、宮本さんが何を思って過ごしているのかがとても知りたくなりました。

 

宮本 「カノン」っていう曲でもあるように、全部結局なくなっちゃうような、諸行無常な感じを僕も思っているはずなんですけど、何となく最後は少し救いがあるような感じにしたくなるんですよね。

 

 

——「カノン」の最後の2行は、特に素晴らしく印象に残りますよね。でもここで言う「救い」は、ただ薄っぺらく甘ったるいものじゃあないんじゃないですか?短い中に強さも説得力もある。

 

宮本 そうですね。そういう…キレイごとじゃなくて、そういうものの先に何か違う、ほんの少しの光が見える方が実感にあるような…最後はそうしたい。あるいは、そうあってほしい。

 

——こうして今回のアルバム『あまりかぜ』が出来て、どう変わりましたか?

 

宮本 全体的に見ると結構暗い曲が多いんですけど、自分の中でバランスをとる感じで明るい曲も出来た。そんなに考えなくても自分の気持ちのバランスとかでアルバムってできるものだな、というのが新しくわかったことかな。

さっき、凝り固まっていた部分がほぐれたって話しましたけど、まだまだ凝り固まっているところがあるんです。

 

——え?どういう部分だろう…

 

宮本 今までは他のミュージシャンや、凄いアルバムを作っている人がむちゃくちゃ考えて作っているかと思っていたんですけど、実はそうじゃない人っていっぱいいるんだろうなって思うようになった。

 

——いっぱいいるでしょう(笑)!

 

宮本 うん。「何となく出来ちゃった」っていう人も、たぶんいっぱいいる。僕は天才ってみんなそうだと思っていたけど、今はもうちょっと楽にしようかなって思ってる。これまでは幻を信じてた感じがありますよね。

 

——東京に来てから見えた部分でもありますか?

 

宮本 そうですね。さっき話した 事件が身近に感じるのと似ていて、東京に住んでいる大物ミュージシャンも少し近くに感じるというか…。「憧れたミュージシャンが笹塚でチャリンコに乗ってる」とか、そういうのを聞くと「結構フツウに生きてるんだな、この人達。」って。

 

一同笑

 

——前田司郎さんに会ったことも宮本さんにとっては大きかったんじゃないですか?

 

宮本 そうですね。前田司郎さんは僕が思っていた作家さんとはちょっと違う人で「面白かったら悔しいから、他の人の作品を見ない」とか「新しいものを作ろうとは考えたことがない」とか、そう言う人だったんですよね。僕は逆に「新しいものを作ってやろう」と思って音楽を始めたので。

 

——そうだったんですか?でも、今は違いますよね。とても自然。

 

宮本 今は違いますね。以前は自分の事を自然だと思っていたんですけど、そうでもなかったなあ。

 

——今これがキテるから、という理由で音も選ばないだろうし、新しさに躍起になっている感じがしない。

 

宮本 音楽をどうやってやろう、ということよりも、自分をどう紐解いていくか、ということの方が今は興味がある感じですかね。それを曲にしていけばいいかな。

 

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——最後に、東京に出てくるときに一緒に連れてきた大事なものを見せてもらえませんか?本がたくさん…これはジム・オルークのCDですね?

 

宮本 『ユリイカ』です。こんなにずっと聴いているアルバムは他にないんですよね。

 

——これは、ジャケ買いですか?

 

宮本 ジャケ買いですね。でも聴いたら音も良くて。単純に良いアルバムですよね。これ(ブックレットの中の絵を広げて)、すごいんですよ。ブルース・リーに憧れてチャリを漕いでいる絵、なんですけどね。

 

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——iPodには曲を入れ替えたりするでしょうけれど、このアルバムは絶対に入ってる?

 

宮本 入っていますね。電車の中とか、特に理由もなく良く聴いている。(彼の)新しい作品も出たりしていますけど、何故かこれを聴いてしまいますね。音が好みなのかなあ…?フレーズから何から、いつ聴いても気持ちが良いですね。中でも『ユリイカ』っていう映画でも使われたタイトル曲が一番好きです。

 

——他にもいっぱい!すべて北海道から一緒に持ってきたんですか?

 

宮本 そうですね。捨てられない奴…殆ど漫画ですね。これはシュリスペイロフのバンド名が載っている漫画(「真夜中の弥次さん喜多さん」しりあがり寿 )です。

 

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——ちなみに今はどんなものがお気に入りですか?

 

宮本 最近はうめざわしゅんさんという方の漫画が面白いですね。作品集みたいなの(『パンティストッキングのような空の下』)が出ていて、それをアマゾンで薦められて、なんだろう?と思って買ってみたら、面白かったですね。

 

 

 

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【リリース情報】

アーティスト;シュリスペイロフ

アルバム:あまりかぜ

リリース日:2016/08/10

価格:¥2,500(税込)

 

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シュリスペイロフ Web

http://syurispeiloff.jp/