2016
08.17
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ビター・スウィートなメロディーを紡ぎつづける本物のピアノ・マン~ジョン・リーゲン<後編>

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ジョン・リーゲンがニュー・アルバムを完成させたというニュースを聞いたとき、僕はもう彼のアルバムを自分のレーベルからリリースすることはないと思っていた。というのも、前作『レボリューション』発表後、ジョンはアメリカの有名なインディーズ・レーベル「モテマ・ミュージック」とライセンス契約を交わしていたので、今後のリリース交渉はジョン個人とではなくモテマ・ミュージックとすることになる。経験上、レーベル同士の交渉だと条件が合わないことが多かったから、この時点で僕は次のアルバムのリリースはないと考えていた。

 

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だから、2015年春にリリースされた『ストップ・タイム』を、僕はひとりのファンとして購入した。アルバムはこれまでになく清々しい作品に仕上がっていた。ジョンの作風の大きな特徴だった渋みは薄まり、柔らかな光が全体を包んでいた。前年に結婚したことも音楽に明るさをもたらしたのだろう。後にジョンはこのアルバムを「妻へのラブレターのようなものだ」と語っている。
プロデューサーには、ロン・セクスミスやスザンヌ・ヴェガを手がけたミッチェル・フルームを迎え、バックはエルヴィス・コステロのバンドメイトとして知られるピート・トーマス(ドラム)とデイヴィー・ファラガー(ベース)。フルームが近年最も重用しているのがこの2人だ。アルバムは全曲ジョンのオリジナルで構成されており、派手さはないが、丁寧に心こめて書かれたのが伝わってくる佳曲ばかりだった。過度な感情の起伏を押さえることで、むしろ音楽としての普遍性は高まっているように思えた。正直な言葉で綴られた歌詞からは穏やかな幸福感が伝わってきた。

 

 

ジョンはこの作品で、1度立ち止まり、過去を振り返ってから、また新たな1歩を踏み出している。アルバムを最後まで聴き終え、「これはジョンにとって人生の第2章を告げる作品なのだな」と気づいたとき、僕は遠く離れた土地で暮らす同い年のこのシンガーソングライターのことを、これまでになく近しい存在に感じていた。僕らは共にもう若くはない年齢になったし、目が覚めるような成功を収めることもなかったけれど、それでも音楽へのときめきを失わずにここまで来ることができた。振り返れば、随分と遠くまで来た気もするが、まだ道半ばでもある。目の前には今もその道がつづいている。

 

僕がアルバムの感想をメールで伝えると、ほどなくしてジョンから返事が届いた。「ありがとう。とても嬉しいよ」という言葉の後に、「ところで、日本でリリースする気はあるかい?」と書かれていた。僕は「もちろん!」とすぐに返事をした。すると翌日、ジョンから届いたのは嬉しい知らせだった。「モテマ・ミュージックの社長に話してみたよ。多分、大丈夫だと思う。前作と同じ条件でいいよね?また一緒に仕事ができるのを楽しみにしてるよ」。そう綴られていた。こうして本国から遅れること4ヶ月、『ストップ・タイム』は日本で発売された。季節はちょうど夏から秋に変わろうとしていた。

 

 

『レット・イット・ゴー』、『レボリューション』、そして『ストップ・タイム』。ジョン・リーゲンが、ジャズ・ミュージシャンからシンガーソングライターとなってリリースした3作品は、どれも高いミュージシャンシップから生み出される良質なクォリティーと、ジョンの人柄がストレートに伝わってくる秀作だった。レーベルの仕事をしていて何が嬉しいかと言えば、それはいい音楽に携われたと心から思えたときに他ならない。ジョン・リーゲンの音楽に出会えたことは、今も僕にとって大きな喜びである。

 

 

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【作品情報】

アルバム:『ストップ・タイム』(Stop Time)

アーティスト:ジョン・リーゲン(Jon Regen)


価格:2,315円+税


ライナーノーツ:宮井 章裕


歌詞対訳:佐藤 幸恵

 

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