2017
03.12
iStock_000060706956_Small

ホリー・スロスビーから感じる現代のシンガーソングライター像

ARTIST, BLOG, RELEASE, VIDEO

フィオナ・アップルのような詩人の中にノラ・ジョーンズのような正統派シンガーの実力が同居するシンガーソングライター、ホリー・スロスビーのソロ6作目のアルバム『アフター・ア・タイム(After A Time)』が2月17日にリリースされた。早くもローリング・ストーン誌が高く評価した同作は、ノスタルジックな音色とボーカルの多重録音を駆使し、ごくプライベートな空間で録音されたかのように聴かせるローファイ風な音作りも、タイムレスな魅力を持ったホリー・スロスビーの歌声と絶妙にマッチして美しい。

 

 

今年1月にリリースされた彼女の最新シングル「エアロプレイン(Aeroplane )」のジャケットで見ることができるそのたたずまいは、凛とした瞳で軽やかに自立した女性という印象だ。これは彼女の歌声の「媚びていない」印象と限りなく近い。女性らしい透明感と儚さと可愛さのある歌声の持ち主だが、毎年メジャー音楽シーンで量産され消費されていく類いの時代に媚びたミュージシャンよりは、1970年代初頭にアサイラム・レコードから音源を出したジュディ・シルあたりの音楽的ストイックさを思わせ、聴く者も思わず居住まいを正したくなるような本物のシンガーソングライターだ。

 

 

その活動のメインとなるオーストラリアでは、2006年から計4回、アリア(ビルボードのようなメジャー・チャート)の年間ベスト女性アーティスト部門にノミネートされたこともある実力の持ち主。アメリカで2005年に大型音楽フェス「サウス・バイ・サウス・ウェスト」出演を果たし、ヨーロッパツアーも敢行するなどしてその実力はより揺るぎないものへとステップアップしている。
サイモン&ガーファンクルのようなフォーキーな曲もあるが、レジーナ・スペクター顔負けのポップな曲でもその持ち味を発揮する(ちなみにiTunesでのカテゴリは「Pop」になっているようだ)。

 

 

 

8歳からギターを始め、作曲を始めたのは11歳。これまでに特別な音楽レッスンは受けたことがないという彼女だが、「表現」するということへの思いは音楽にとどまらず、2016年に出版した小説『グッドウッド(Goodwood)』は大型書店の年間ランキングでトップ10に入る人気作となったほど。ホリー・スロスビーの公式ウェブサイトには「良い本と、難しいクロスワードと、小さな街と、犬が好き」と書かれ、動物保護団体のメンバーとしても活動しているそうだ。

音楽だけをやってきた人ではないからこその自由な表現力、というものには、音楽だけを極める人とはテイストの違う魅力がある。しかし、ふんわりとポップなホリー・スロスビーの音楽の奥に感じられるストイックさは、思いを形に、行動にするという「表現者」としての素直な欲の為せるものなのかもしれない。主軸を1つに置くのではなく、すべてに全力。その軸のブレなさ加減がきっと彼女を自由に軽やかにし、池の飛び石を渡るようにトントントンと、大きな舞台まで彼女を連れて行ってくれるのではないか。究極の自作自演家であるシンガー・ソングライターの未来が、そんな風に広がっていくのも素敵なものだ。

文 / 水田真梨