2017
04.18
17902829_1394459363977873_704283107_o

サリー・ドゥワースキー『ボックシズ』 – 彼女の名前を知らなくても、その歌声は多くの人に愛されている –

ARTIST, BLOG, VIDEO

サリー・ドゥワースキーは6人家族の末娘として育ち、家を出てミュージシャンとなり、結婚し、2人の子どもを生み、母親の世話のために故郷へ戻り、そして看取った。もう随分前のことになる。

過ごしてきた時間が、サリーの歌声に深みを与えたのは間違いない。翳りがあるのに、とてもみずみずしい。悲しみの後に訪れた生きる喜びのようだ。その控えめさに、女性らしい芯の強さに、僕はいつも感動させられる。

 

 

17886888_1394459027311240_1500859376_o

 

アメリカを代表するプロデューサーのひとりであるジョー・ヘンリーは、かつてサリーについてこう語っている。「目の前で鮮やかに広がる彼女の歌の世界は、まるで魔法を見せられているようだ」と。ジョー・ヘンリーに限らず、彼女の歌声のファンは多い。もし『ライオン・キング』、『プリンス・オブ・エジプト』、『シュレック』などの大ヒットしたアニメーション映画を観たことがあるなら、あなたはサリーの歌声を既に聴いていることになる。そして、深く胸を打たれているかもしれない。

 

 

『ボックシズ』は、サリー・ドゥワースキーにとって唯一のフル・アルバムだ。アコースティック・ギターを基調とした素朴な作品だが、曲によっては音の処理の仕方が斬新で、かつての彼女が先進的なサウンドを摸索するアーティストだったことが窺える。とはいえ、このアルバムの主役はサリーの声だ。そのために無駄な音は極力削ぎ落されている。アルバムには深い説得力があり、サリーが長い時間をかけてここに辿り着いたことが、どの曲からもよく伝わってくる。

僕が一番好きなのは「ブレイキング」という曲だ。おそらく、彼女のつらい経験から生まれたであろうこの歌は、メロディーがとても美しく、歌声は細く儚い。

 

 あなたは私に説明をしようとする
 どうやって私をここから連れ出して
 不可解なものから私を守るのかを

 でも、私はあなたにそんなことしてもらいたくない
 私のことをいちいち調べて
 反対したり許したりするなんて
 大丈夫よ、私は壊れているわけじゃない

 

「スウィーテスト・デイズ」もずっとお気に入りの曲だ。聴くたびに、悲しみと優しさはひとつであり、けっして切り離されるものではないことに気づかされる。

 

 あなたは私に惜しみない愛情を注ぐ
 それ以外なく、ひとつの遠慮もない
 なによりも心あたたまる日々
 来年の夏にはもう想い出せなくなるのでしょうね

 

「ライズ」は、アルバムのラストを飾る曲で、穏やかな日々の訪れに気づく歌だ。彼女はもう一度立ち上がろうとしている。

 

 玄関に立って
 近所の人たちが見ている前で
 私は両手を広げる
 求めるものはただひとつ
 靴に足を埋めて
 ひたすら歩くだけ

 

 

他にも好きな曲はたくさんある。控えめな音楽だから、聴き流すこともできるだろうが、多分、それはふさわしい聴き方ではない。静かに耳を傾けるだけの価値が、このアルバムにはあると思う。

以前、サリーとメールのやりとりをした中で、印象に残っているのは、僕が彼女の年齢を訊ねたときのことだ。30代前半と推測した。訊ねても失礼にはならないだろうと思ったし、実際そうだったと思う。サリーからの回答は、機知に富んだ女性らしいものだった。

「本物であることが何よりも大切なのを知っている程度には歳を重ねたわ」。

一瞬、彼女のはにかんだ笑顔が見えた気がした。そんなわけで、彼女が何歳なのかは今でもわからない。もう随分前の話だ。

 

 

17918292_1394458500644626_546795245_n

【ディスク情報】

アルバム:『ボックシズ』(Boxes)

アーティスト:サリー・ドゥワースキー(Sally Dworsky)

価格:2,381円+税

ライナーノーツ:宮井 章裕

歌詞対訳:佐藤 幸恵

<購入・試聴>

Sandfish Records Shop