2017
06.01
8

【INTERVIEW】宮田涼介のポートレイト集『films』に耳を澄ませば

INTERVIEW, NEWS, RELEASE

ある大物サイエンティストが「科学には踏み入ってはいけない領域がある」と訴えるのを聞いた。科学的に立証できなければ説得力を持たなかった世の中の”定義”に限界が来た、と言うことらしい。そういえば日本の音楽もまた商業音楽誕生以来、規則的/理論的に在り 語り継がれた謎の品質ルールが飽和し、本来の音楽の姿へ帰還しつつあるのかもしれない。ならばソレは何か?そして今こそソレを文字化するべきではなかろうか。

そんな中、宮田涼介の『films』を聴けば 所謂非科学的な領域、つまり「空(くう)」であることを自然に望める気がする。宮田本人はやや物理的/経済的視点で語ってくれたものの、社会的に穏便に済ませようなどという音楽家病も不要なカッコツケ病も煩わない音の裸像からは “穏やかな高揚”と“ささやかな感傷”のみがナチュラルに摘出されており、それらが一種の理(ことわり)であると頷けるからだ。

さては『films』誕生は”必然”であったのだろうと勘ぐった僕は、早速 宮田涼介本人に語ってもらった。晴れた空は、広く高かった。

 

【写真】のうだ ちなみ

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——まず、今回のアルバムのタイトルは『films』ですが、拝聴してみると架空映画劇伴集のような印象も受けたのですが。

 

宮田 「films」という作品名は、僕がこれまで生きてきた中で強く記憶に残っている瞬間を切り取って、つなぎ合わせていってできたのがこのアルバムだったので、このタイトルにしようと思ったんですね。誰にでも「忘れたくない瞬間」っていうのがあると思うんです。それをフィルムに焼き付けるような感じなんです。

 

——その瞬間を箇条書きなりリストにあげて曲に当てはめていったようなイメージですか?

 

宮田 全部頭の中にありますね。僕自身、そこまで論理的に物事を進めていくようなタイプではなく、ハートが先行していく性格なので思いつくままにセレクトしていって、結果的に 14 曲になった、という感じですね。

 

——まず初めに出来上がった曲は?

 

宮田 実際には過去に作って眠らせていた曲もあるんです。それも含めると時期的に一番早いのは一曲目「sorrow」ですね。これは僕がネットで作品を発表するもっと前、作曲を始めて一年も経ってない時期にピアノで作った曲ですね。

 

——宮田涼介の青写真といっても良い曲ですね。

 

宮田 ある意味そうですね。

 

——今回はピアノだけの作品ですね。

 

宮田 ちょうど一年前(2016年)に4枚目のアルバムを出したんですね。その直後にプライベートでいろいろあって体調を崩したんです。それで療養期間 で一時期苦労したんですけど、2016 年の秋にようやく落ち着いてきたんですけど、この期間は曲が作りたくても全く作れない状況だったんですね。無気力というか、全てのことに対してモチベーションが持てなくなってしまうような状態、日常生活レベルが崩れかかった。

 

——その病気は相当な苦労をされたようですが、一体何がきっかけで回復に向かったのですか?

 

宮田 薬もありましたが、一番大きかったのは紹介してもらった整体ですね。その整体師さんに「胃が落ちている」と言われてそこを改善してもらったら、あんな に苦労していたのが嘘のように本当に良くなって行ったんです。びっくりしましたね。そういうことがあったので、再度また創作するにあたって、今回の作品は単純に自分の原点に立ち返りたかったんです。

 

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宮田 僕は3歳からピアノをやっていたので、間違いなく自分の音楽の原点はピアノにあると思うんですね。そこに一旦立ち戻って、新しい気持ちで作品を作りたかった。それで思い切ってピアノだけの作品にしたんです。

 

——バンドではギターを弾かれていますけれど、もしかして普段からソロではあまりギターを使わないとか?

 

宮田 いや、これまでの作品では大体なんかしらでギターを使っていますね。 結構原型をとどめないくらいに加工してしまうので、ギターなのかシンセなのかわからないものが多いですけど(笑)。今回は本当に初めてギターを使わない作品なんです。

 

——今回、そういった思い切った手法を選択される上で葛藤はありませんでしたか?

 

宮田 それはなかったですね。もう新しい気持ちでやってみたいっていう思いが強かったので。ギターを弾かないで作品を作ることに対して全く抵抗はなかったですね。

 

——1曲だけカバーをアレンジしたものが収録されていますね。

 

宮田 あの曲は好きですね。最初に聞いたのは子供の時だったと思うんです。 記憶は定かではないんですけど、もう亡くなった親戚が子守唄を歌ってくれていたのを覚えているんですけど、その時に好きになったんじゃないかと思うんですよね。中島美嘉さんがカバーされたりもしていましたけど、あの歌詞に描かれている情景が自分の中ではくるものがありますね。あのアレンジについては結構とっさの思いつきです。

 

——全体的にテンポも変えずになだらかな作品で、一枚が一曲のようにも捉えることができると思ったのですが。

 

宮田 速い曲があまり作れないっていうのもあるんですけどね。小さい時から穏やかな曲ばかり弾いていて、それが手グセになってしまっているっていうのもあるんだと思うんです。ピアノの先生も僕が激しい曲が好きじゃないのを知っているので、発表会をやる時は響きが綺麗な曲ばかりをチョイスしてくれましたね。

 

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宮田 あとは、僕が小学生の頃に坂本龍一さんの「energy flow」がすごく流行って僕も好きになったんですけど、それからいろんなピアノの曲を漁るようになって、そういったことも影響しているんだと思いますね。

 

——現在は所属しているバンド(かろうじて人間)の活動も活発ですね。でも両者は全く違う作風ですね。

 

宮田 そうですね。

 

——これは宮田さんの解釈で構わないのですが、例えば“人間でなくなるときの境目”っていうのは、サイコ的な意味合いですか?それとも高い志操との境目をさしていると思いますか?例えば、動物と人間の境目か、仏と人間の境目なのか。

 

宮田 このバンドは本当に価値観の違う4人が集まってできているバンドなの で、バンド名の解釈ひとつ取ってもそれぞれ捉え方も全然違うんですね。僕の場合はこういう病気のことがあった時に自分の中ではじめて明確になった気がしますね。療養中は、自分が生きている人間なのか死体なのかがわからなくなった。それでもなんとか普通のレベルの日常生活を送って行きたい、それが“かろうじて人間”ということなのかな?と思いましたね。

 

——天空ではなく海底にいる感覚ですかね。

 

宮田 そうですね。海の底にいて、なんとか日の目を見ようとして這い上がろうとしている状態そのもの。でもそれが実は一番人間らしいんじゃないか?とも思っています。

 

——そういったバンドと宮田さんのソロではどういったバランスをとっていますか?

 

宮田 音楽的にはギターを始めたのは高校の頃で、ずっとクラシックもロックも両方聴いていたので、そこを行き来することにはあまり抵抗もないですね。 個人は個人、バンドはバンド。無意識のうちに住み分けているんですかね。

 

 

——ちょっとした雑談の時に、外国に行くなら宮田さんはアイスランドに行って みたい、と言っていましたね。そう言われて感じたことなんですが、宮田さん の作品からはすごく響きの透明感を意識されているように思えるんです。宮田さんも言われてようにあちらの音楽独特の鋭利な響き方をしますね。温度で表現すると、ひんやりとした…

 

宮田 そうですね。日本人には本当に真似できない気がしていますね、あれは。

 

——そういったものが影響して日本で住む宮田さんが咀嚼した末の表現のような気もしましたね。宮田さんの音には丸く人肌の温もりがある。

 

宮田 そういえば今回 CDを出すにあたって知り合いのピアニストにコメントを書いてもらったんですけど「日本人ならではの温かみのある作品だと思いました」 とあったんですね。その土地に根ざしている人にしか出せない音があるって聞 いたことがあるんですけど、そういうことかな?とも思いますね。曲を作っている時に日本人っぽいものを作ろうと意識したことはないので、こうして人に言われると新鮮ですね。僕は所謂プロダクションに属していないので、作品は全てセルフプロデュース、したいと思ったことしかやっていないんです。

 

——ご自身でレーベル(fumin.)もされている?

 

宮田 fumin.は有志が集まって始まったレーベルです。僕はスタッフとして活動しています。別のアーティストが主宰をしているんですけど、きっかけは繋がっていた ツィッターですね。“感覚をベースにしたレーベルを作りたい”っていうツイートを見て「面白そうだな!」って思ったんです。当時は軽い気持ちでリプライをしたんですけど、紆余曲折あって今はスタッフとして運営していますね。

 

——所属バンドではライブを極力しない方針のようですが、ソロとしてはどうですか?

 

宮田 声がかかれば演っていますね。僕にとってライブ活動は作品を作るのと同じくらいエネルギーを使うものなので、あまり頻繁にできないので、数ヶ月に一回、ライブは一大イベントとしてやりたいですね。

 

——実際に作品が出来上がって、改めていかがですか?

 

宮田 そうですね…月並みですが「ピアノって、やっぱりいいな。」って思いましたね(笑)。 でも、今までのアンビエントを否定するつもりは全くないので、アンビエント作品もまた発信したいですね。

 

 

【取材/文】 田中サユカ

films

【リリース情報】

アルバム:films

アーティスト:宮田涼介

リリース日:2017/05/21

価格:¥2,160 (tax in)

レーベル:Cat&Bonito

 

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