2017
08.21
Beautiful arabian woman in color yashmak

“じゃない方”のHiatus。イラン産の白昼夢サウンドに耽溺せよ

ARTIST, BLOG, VIDEO

「天は二物を与えず」なんて言葉が古くからあるが、そんな言葉は完全なる大嘘だ。国内すべての辞書という辞書から即刻削除していただきたい…そう思わずにわいられない多才なる人物は音楽界にも非常に多く存在する。今回紹介するHiatus(有名な日本のバンドthe HIATUSとは全くの別アーティスト)もその一人である。

 

 

Hiatus(ハイエイタス)はロンドンに拠点を置くミュージシャンで、イラン人Cyrus Shahradによるソロプロジェクトである。非常に多才な人物でイランの首都テヘランに在住していた時期には映画評論家、新聞記者として働いており、2006年にはTelegraph誌のNovel In Yearというコンペティションにて優勝しているというから作家としての才能もあるようだ。

 

これだけでも十分だが天は彼に二物を与えた。2003年からHiatus名義で音楽家としても活動を開始。最初は自作の音楽をCD-Rに焼いて(懐かしい響きだ…)友人や家族に送って聴かせると言う小規模なものだった。しかし、2017年現在、3枚の公式なスタジオレコーディングアルバムをリリースしている。

 

 

イラン出身と聞くと、トライバルなビートやウード(アラビア音楽特有の琵琶のような楽器)が飛び出してきそうに思うかもしれないが実際にHiatusの音楽を聞けば、最近の音楽好きならポスト・ダブステップ、90年代から音楽を聞いている人たちにとってはトリップ・ホップなんかを彷彿とさせるかもしれない。

 

Hiatusを聴いたならきっとそのメロディの美しさに心を奪われるだろう。控えめなエレクトロ・ビートの上で艶麗なピアノの旋律が…と言うと、「そんな音楽腐るほどあるだろ」と言われそうだが、現代において重要なのはアイデアや手法の斬新さなどではなく、サウンドの調合・匙加減のはずだ。

 

ピアノを中心に置きながらバイオリン、ドラム、ノイズ、カットアップされた女性のボーカルが、細心の注意を払って丁寧に重ねられた時に現れる音像は、優れた文学がシンプルな文章を重ねながら圧倒的な描写力で読み手の中に一つの明確なイメージを喚起するように、聴き手の中に輪郭のはっきりした感動を生み出してくれる。文筆家として培われたセンスがHiatusのサウンドメイキングにも遺憾なく発揮されているようにも思える。

 

 

彼の作品を簡単に紹介しよう。煌びやかながらも生っぽいドラムや時折顔を出すエレキギターでポストロック的に彩られた2010年リリースの「Ghost Note」、煌びやかさはそのままに1stよりエレクトロニカ色を強めた2013年の「Parkland」、優秀なゲストボーカルを迎え、より美しく、より静謐に鳴り響く2017年作品「All the Troubles Heart」。3枚ともかなり高いレベルの完成度を誇っているが個人的に1枚選ぶとすれば「All the Troubles Heart」を推したい。

 

また、Bandcamp上ではフリーダウンロードの楽曲も多数用意されているのでそちらも要チェックだ。

 

文 / 沢田 シュウ