2017
12.27

【INTERVIEW】 mu-ton「フリースタイルダンジョン観ていて、本当に面白いっすか?」

ARTIST, INTERVIEW

今は国産ラップの評価規準を定める前に、改めて多様性を探り諾うタイミングなのかもしれない。

2017年を振り返ればEMINEMをどっぷり経由した英Ed Sheeranがスポティファイの再生記録を塗り変えポップの中心に、米グラミー候補では ある意味対照的だが同畑のJAY-ZやKendrick Lamarが多部門でノミネートされたそうだ。ここ日本のシーンにおいても、純な音楽ファンがスピリッツをヒップホップへ求めるようになって来たと言うけれど、この道筋の先に彼”mu-ton (ムートン)”の存在を確認。何故か彼だけは素通りできなかった。

まずはソロ音源未発表であるにも関わらず、mu-tonのライミングには音楽性に富んでいることに注目したい。天性なる色気のトーンやブレス、コード感覚と滑らかなグルーヴに加えて、US憧れのソレや 一目置かれるバイリンガル・ラッパー達とはまた別の可能性を秘めた、福島は白河仕込みの自在なフローが彼のオリジナルだ。それを前半はしなやかに、後半にかけて重力をかけながら突き上げていく”手グセ”はすでに妙味な仕上がりだが、しかし彼の本当の凄みは強靭な “マインド”にあるのではないかと思っている。mu-tonのMCはいわゆる“インプロ”であって“暴力”ではないから、今そこで鳴るビートありきのバースを彼がキメるたびに、対戦者が全く別の価値観を持ったラッパーに映るのだ。目の前のラッパーにとって、果たしてMCは力技か芸術技か—— 彼の中のヒップホップが音楽の上にスキルと哲学で組み立てられていると検証する時点で、少なくともラップもアートの部類であることにハッとさせられた。

そんなわけで急遽 “音源リリース前すぎるインタビュー”が敢行されました。四六時中 作品のことばかりを悩み苦しみながら話すmu-tonの姿はまさに”音楽家そのもの”でありました。次は音源リリースで登場する予定ですが、その前にまずは”mu-ton”の人物像にスポットを当ててみましょう。

写真・取材・文=田中 サユカ

 

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——mu-tonくんに興味があるのは、音楽的側面から見たmu-tonくんのラップの魅力なんです。mu-tonというラッパーがどのように作られたのか、皆さんも興味があると思うんですよね。生まれた時から福島県の白河ですか?

 

そうですね、生まれも育ちも白河ですね。会津町っていうところで、日本で一番小さいと言われている小峰城の城下町で暮らしています。

 

——お父さんは音楽を?

 

全然!お父さんは元競輪選手で、お母さんは冠婚葬祭の仕事を自分でやっていますね。で、姉が二人います。

 

——お姉さんとは年が離れている?

 

そうですね。33歳と31歳…くらいですかね。

 

——それでmu-tonくんは今…

 

22歳です。1995年。

 

——それじゃあバブルが崩壊したころですね。少年時代はどんな音楽を聴いていた?

 

そうですね…小学生の頃の記憶がないんですよ。記憶があるのが中学校くらいなんですけど、ORANGE RANGEとかAqua Timezとかが流行っていましたね。ELLEGARDENっていうバンドはわかりますか?あとは Dragon Ashとか聴いていましたね。ヒップホップも中学校2,3年くらいから聴き始めましたね。

 

——わかりやすく言うと、ちょうどヒップホップ全盛期を迎えて、さんぴんCHAMPが開催される頃(1996年)くらいでしょうか。

 

そうですね。

 

——あの頃は今よりもずっとUS優勢というか、全体的にある意味洋楽主義な時代でもあったと思うんですけど、mu-tonくんは洋楽を聴いたりはしませんでしたか?

 

中3か高1の頃にはヒップホップを聴いていたんですけど、正直洋楽を聴いても全然何を言ってるかわからないし、良さもわからなかったですね。

 

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でも、地元のJAG-MEっていうラッパーと自分の親戚と仲が良かったんで、ある日 JAG-MEと、“隠密48”っていうクルーでJAG-MEと一緒のTAIC(タイシ)のバトルを観に行ったんですよ。そしたら喰らっちゃって、喰らっちゃって! それからは自然と洋楽も聴くようになりましたね。

 

——彼らが根付かせた“白河のラップ”にがっちり掴まれた。しかし良いと思えなかった洋楽を楽しめるようになったということは、聞き方としてはどんな風に変わりましたか?

 

自分が一番影響を受けたラッパーはTAICなんですけど、彼は帰国子女で英語が喋れるんです。だからMCとかも英語で、何を言っているか全然わからないんですけど、とにかく音の取り方が半端なくて!あいつのライブを聴いている時は絶対に体を止めていられないんですよ。TAICのライブを見ていると、確かにリリックも大事だけど、まずはフローが良くないとヒップホップはダメだなっていう考え方になった。そこから洋楽の良さがわかるようになりましたね。

 

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——mu-tonくんが実際にラップをやり始めたのは?

 

ラップ自体は高校1年生くらいの時からやっていましたよ。最初は同級生の友達とサイファーみたいな感じで、でっかいマイクとラジカセを繋いで、外で2〜3人でやってました(笑)。

 

——始めた頃、手応えみたいのは感じた?

 

いやあ…今でも俺は自分がすごいラップをするとは思っていないんで(笑)!俺がすごいというよりは、例えばメインストリームのフリースタイルバトルに出ている人たちのレベルが低すぎるんじゃないんですかね。多分、出ていない人でめちゃめちゃすごいラッパーはたくさんいると思います。でも今前線に立ってやっている人たちがカッコよくなさすぎるんだと思うんですよ。

 

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——確かに!例えば先日mu-ton くんが登場したTV番組「フリースタイルダンジョン」(2017年10月放送)はエンターテイメントの一手段にすぎない一方で、これが全てだと捉える人があまりにも多いから、ヒップホップとしての理性まで失われかねない気もします。まあ、そう言いつつもmu-tonくんは番組のおかげでバズったとも言えるわけだし、私も名MC大会でmu-tonくんを発見したと言う事実もあり。だから今後は、その人なりの”ヒップホップ存在論”みたいなものを探るべき時なのかもしれませんね。mu-tonくんは年明けにも大きな大会(KING OF KINGS 2017)が控えていますね。さっきバトルは売名のためだと言いましたが、mu-tonくんのすごいところは、そもそも相手の攻撃の先にいないから、相手が勝手に転んでいるようにも見えるところ。

 

バトルに関しては売名と、お金もらえればなお、良し!それくらいの気持ちでしか出てないっす(笑)。「フリースタイルダンジョン」では、みんな「般若を倒したい!」とか言っているけど、俺は全然興味がない!ラッパーは どんなにバトルで勝ったって、音源が売れなきゃ始まらない。

 

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——同感です。でも、実際にはバトルに出ていて“気持ちの良い瞬間”もかなりあったんじゃない?

 

そうなんすよ!バトルって、やる前はめっちゃくちゃ嫌なんですけど、いざ出て勝ったりすると面白くなってきちゃうんで…だって、勝ったら嬉しいじゃないですか!しかも観客も何千人とかいるところで、歓声なんか浴びちゃったら…!!あれは、演っている方も中毒になっちゃいますよ!だから早めに抜けないと(笑)!

 

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——ちなみに対戦相手の情報を事前に調べる人も多くいますよね。mu-tonくんは調べる?

 

いや、全然調べないです!戦う寸前まで誰だかわからない。トーナメントとか決まっても見ない。そんなにヤバイと思うヤツもいないんで(笑)!

自分が実際に出て、周りを見ていて思うのは、最近のフリースタイルバトルは、バトルではあるんでしょうけど、ヒップホップではないかな、と思うんですよね。“MCバトル”って言っても、フリースタイル自体は“音楽”だと思うので、これは音楽性の戦いだと思うんですよ。相手より自分にしかできない音のノリ方や言い回しだったり。それがビートと合っていたかとか、うまく表現できていたかとか、そういうところで勝敗を決めるのが面白いバトルなんじゃないかと思うんです。

 

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でも最近はただ韻を踏んでみたり、揚げ足とってみたり…だって、実際知らない人に文句言うことなんてないじゃないですか?それなのに、一生懸命相手の悪口を言ってるだけじゃないですか…それがなんか違うんですよね。

自分は、バトルに出た時に相手をディスってやろうっていう気持ちでマイクを握ってない。ビートが流れた時に「こういうノリ方をして、こういう雰囲気でラップすれば一体感が生まれるだろう!」っていうグルーヴを大事にしてるんです。だから、やろうとしていることが違うんですかね?最近の人とは。

 

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——その通りだと思いますよ。そして今、mu-tonくんは日本語における“フリースタイルとは何か”を問い直す機会をくれた気がするんです。これまでもmu-tonくんと同じようなマインドで挑むラッパーも多くいたと思うんですけど、黙らせるだけのエネルギーがあと少しおよばなかったり、絶好のタイミングに恵まれなかったりした印象です。それを言うとmu-tonくんはある意味でラッキーなのかもしれないけれど、少なくともmu-tonくんは表現に徹しているから、バトルがライブとして成立して、ソロ作品へと興味が移っていく。ところで、作品の制作は始まっている?

 

はい、もう始めています。でも、すごく楽しみにしてもらっているのに…1,2曲は録ったんですけど、まだまだリリックに深さが足りないんですよね。なんていうか…

 

——一方で所属クルー(TRI MUG’S CARTEL)のMVは最近公開しましたね。危険な…ヤバイヤツ。

 

ワハハ!よく見てますね(笑)。「危険」は偶然(笑)!この曲は殆どみんなフリースタイルなんですよ。せっかく売名するためにバトルに出て、割と名前も知ってもらえたんで、ソロもクルーも今のうちにアルバムを出したい!それに来年はジャズ系のバンドともやってみたい!

 

 

——ここで今一度はっきりとさせておきたいのですが “mu-ton”はアーティストとして曲を作っている?それともラッパーとして曲を作っている?

 

めちゃめちゃいい質問しますね……。でもそれはラップ以外もやるかやらないかっていうことの違いですかね。それとも表現の仕方の違いですかね。

 

——そうですね。まずは“mu-tonにとってのラップとは”から始まるのかも。

 

俺にとってのラップは歌っているのと一緒だと思うんですよ。…っていうことは、アーティストとしてラップをしている!

 

—するとトラックのサウンド的な観点からも自分で設計したい?

 

そうですね、色々好きですからね。これだけは言えると思うんですけど、ただ「ウェーイ!」って上がるだけのラップというよりは、聴かせるラップを展開したいんですよ。だからと言って、最近でいうところの「母ちゃんありがとう!」とか「俺がお前を幸せにするぞ!」とか、そういうことじゃあないんですよ!あまりうまく説明できないんですけど…例えば母ちゃんのことを歌っているとしても、それを日本語を理解できない人がちゃんと感動できるか?っていうことだと思うんです。

 

——確かに。名曲は歌詞の枠を必ず超えていますからね。

 

そうなんですよ。言葉が通じない人が聴いてもカッコイイと思えるものが一番かっこいいんじゃないかって思います。

 

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俺自身がUSのラッパーとかを聴いて、何を言っているかわからないけどかっこいい!と思う。そうなるとやっぱりまずは心地よい音の取り方をしないと!俺はそういうのを目指したいんじゃないかと思うんですよね、きっと。

 

——あなたは本当に素晴らしいアーティストだと思う。今回は話題に出さなくて申し訳ないけれど、TRI MUG’S CARTELへの思い入れもひしひしと感じます…合ってますか?

 

合ってます、合ってます!その通りです!3MCで演っているんですけど、まずはTAIC。TAICからは直接何か教わった訳ではないんですけど、自分の“師匠”ですよね。多分これから先もあいつよりうまいラッパーは出ないと思いますね。もう一人のロープはすごく良いライバル。新しい曲を録るっていう時も、あいつのはいつもヤバくて、悔しくなる。“個性”なんで 勝ち負けってわけではないと思うんですけど、思い切り切磋琢磨できる相手ですよね!

 

 

 

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