2018
06.20

【INTERVIEW】『お湯の中のナイフ』でデビュー。田中ヤコブは何者か?

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『ビッグ・リボウスキ』というUS映画をご存知でしょうか。なんの変哲もない田舎町で、眠るように生きる不精男達の身に起きる複雑なドラマを描いた作品なのですが、隠し味と呼ぶべきか本質と呼ぶべきか、私はこの映画こそ男(恐らくそれは作り手であるコーエン兄弟二人?)のロマンとロックの塊だと解釈しています。そして まさに本作『お湯の中のナイフ』は、東京都は多摩川周辺で淡々と息をする「田中ヤコブ」と言う音楽家が、誰も見ていないところで魂を燃やして産み落とした ロマンとロックの塊、つまりは『ビッグ・リボウスキ』(或いは『大いなる眠り』)だと思うのです。

このインタビューではちょっとびっくりするくらい謙虚な彼でしたが、改めて作品に耳を通してみれば、彼自身の声で始まる大胆な冒頭、弾き重ねるインプロの絡み合いでフルアクセル!一枚通して彼の高い制作温度が肌で感じられる、非常に濃度の濃い作品だとわかります。遅くない、早くない。満を持してトクマルシューゴ氏のレーベル「TONOFON」からのリリースです。どうぞお聴きください。

取材・文・撮影=田中サユカ

 

——まず、本作『お湯の中のナイフ』をポップアルバムという心算で拝聴したのですが、実際はかなり尖ったロックアルバムだと思いました。ドラッグ臭こそないものの60年代ビンテージロックの味覚もありパンク感もあり。言葉も尖った言葉。

 

友達の影響でそういう界隈にいたこともあって、今もマイペースにパンクのバンドでギターを弾いたりしています。今日も偶然ガーゼ(GAUZE)という大好きなバンドのTシャツを着ていますが、キツい時に一人で聴いて己を奮い立たせたり、落ち着かせたり。そういったアティチュードが自分のアルバムにも入っているといいなと思います。

 

——他に、例えば思春期の頃にはどんな音楽を聴いていましたか?

 

がっつりブルーハーツとハイロウズ(笑)。あとはスピッツや大滝詠一、ELO、XTC…節操なく聴いていましたね。

 

——音楽キャリアは長いけれど、アルバムをリリースするのは初ですね。

 

ずっと曲ができたらYouTubeにアップしていくことを続けていて、ある程度溜まってくると、デモCDを作って友達に渡したりしていました。

 

——今回正式な作品をリリースしようと思ったのは?

 

(トノフォンに)お声がけいただいたからです。何か機会があれば一回出しておきたいなって思っていたので…ありがたいお話です。

 

——さて、本作のあらゆるイメージがショッキングです。まずはタイトル「お湯の中のナイフ」から。

 

餃子をみんなで作っていた時のことなんですけど、包丁が机の上に出しっぱなしになっていて「その包丁は危ないからお湯の中に入れておいて」って誰かが言ったんです…あ、“お湯の中のナイフ(水の中のナイフ)”ってなんか良いじゃんっていう超簡単な理由(笑)。

ムーンライダーズが好きだから「水の中のナイフ」っていう曲に絡めたところもあるんですけど、流石にふざけ過ぎているかな…と思って、一度は出したこのタイトル案を取り下げようと思ったら、間違えてメールで送信してしまって。そうしたら、製作側から評判が良かったんです。ムーンライダーズの曲名もそうですが、『水の中のナイフ』っていう映画があるということもあって。

 

——ジャケットイラストでは首から上がありません。

 

友達が撮ってくれた写真を自分で模写したものなんですけど、顔があると逆に全然しっくり来なくって。

 

——顔をあえて隠している?

 

いえ、もともと被り物が好きで、PVでもガスマスクやペストマスクを被っているんですけど、そこから派生してこんな感じに(笑)。むしろキャラクターになったような感じで。特に匿名性とかっていうことにこだわっているわけではないんです。

 

——ブックレットの歌詞やイラストも全て手書きですね。…ラインのやりとりの画面のイラストが載っていたり。

 

これはと友達とラインをしていた時の画面をそのまま写してます(笑)。

 

——「ドハ」とは?

 

HARD OFFっていうのをぼくの界隈では「ドハ」って言うんです(笑)。この日、友達をHARD OFFディグに誘ったら「結婚式に参加していて行けない」と。その時のやりとりなんですけど、「結婚式よりハードオフだろ!」という冗談で送ったんですけど、ガチだと思われてもシャクなので最後には「うそうそうそ…」ってフォローしているという……(笑)。

 

 

——今回のアルバムのために新しく書き下ろされた曲は?

 

3曲目「ヤコブな気持ち」と11曲目「DOOM」ですね。ほかもほとんど新しく録音しています。

 

 

マスタリングが終わって間もない頃に聞き直すと、確認作業みたいになっちゃって「ここは変じゃないか?」とか 「この作品はやばいかも!?」って思ってしまう時期があったんですけど…(笑) いまは普通に聴いても(自分の作品が)良いと思います。

 

——ご自身で全部重ねて録られているのかなと聞こえつつも、他のミュージシャンと一緒に録っているようにも聞こえたり。楽器もバラエティ豊かで、特にギターをはじめとして絃楽器の色彩が豊かですね。

 

全部自分で演奏しています。弦楽器は、アコギとエレキギター、ベース、曲によってはバイオリンやバンジョーも弾きましたね。なので楽器の修理はよく出しました。昔からお世話になっている楽器屋さんに『お湯の中のナイフ』を聴いてもらったら「すごく良い!」って褒めてくれて。嬉しかったですね。

 

——ギターの存在感は外せない。インストアルバムも聴きたくなるくらい、フレーズやアレンジが作り込まれていますね。歌もの作品にした理由は?

 

単に歌がないとバランスが悪いし、というか単純にボーカル作品が好きだからですかね。でも自分の声が好きじゃないから、他に素晴らしいシンガーが自分の曲を歌ってくれると言うなら、全部お任せします(笑)。

 

——どういった歌い手が好みですか?

 

ELOのジェフ・リンのような味わい深く優しい声が好きです。でも、世の中にいる歌い手はみんな素晴らしいと思いますし、自分がワーストなんじゃないかって言う思いがどうしてもあります(笑)。アルバムを聞いても自分の歌は「ここ、キモい!」って思うことが多々ある。でも、人に聞かせたら「気にならない」「むしろ良いじゃん」と言う意見も聞くようになって、それでやっと「じゃあ、もう大丈夫っていうことにしよう!もう直せないし!」って、思い(乗り切り)ました(笑)。

 

一同笑

 

 

——そんなデビュー作『お湯の中のナイフ』のリリースにあたって、自分自身の中で何か変化はありましたか?

 

正直あまり変化とか自覚はないんですけど…改めて人のことをディスっちゃいけない、と思いましたね(笑)。他のバンド(ラッキーオールドサン、など)でサポートギターを務めた時も思ったんですけど、アルバムを一枚作るのにかかる労力を目の当たりにして…大変だなあと。特に好きじゃないバンドでも「良くないっしょ」とか、言わないようにしようと思いましたね(笑)。素直な感想も大事だとは思いますけど(笑)。

 

一同笑

 

——リリースパーティーがありますね。ヤコブさん所属のバンド「家主」の他にも出演者は気心のしれた仲間が揃っています。

 

ラッキーオールドサンにはサポートで参加していますし、牧野さんも昔からよく録音のお手伝いというか、感覚としては完全に遊びに行ってるだけなんですけど(笑)、毎回めちゃめちゃ楽しい。彼はいろんな機材を持っていて色々試して「戦前のマイクすげー!」とか言って興奮した、という類の思い出が多々あります(笑)。

 

——田中さんも色々お持ちですよね?ツインネックギターなど。

 

あれはね…もう売りたいんですよ(笑)。14万くらいして、その時のノリだけで買ってしまったんですけど、重過ぎて結局一回も人前で弾いたことがないんです。あの…(「ヤコブな気持ち」)PVに出ているギターを欲しい方は8万円(応相談)で売ります。ただし、僕の家(神奈川)まで取りにきてくれる人に限ります(笑) 連絡ください。結構本気です(笑)。

 

——リリースパーティーにはトクマルシューゴさんもDJで出演しますね。この作品のリリース元トノフォンの主宰でもあり、一部の曲のミックスもされました。

 

楽しかったですね。絶対に自分ではできないミックスをしてくれる。トクマルさんのパブリックイメージとしてはふんわりした音楽の人という感じがあるかもしれないんですけど、僕のイメージでは厳密なセンスとテクニックの人。そんな方にお任せすることができて、よかったですね。

 

 

 

【リリース情報】

アーティスト:田中ヤコブ

アルバム:お湯の中のナイフ

リリース日:2018/06/06

価格:¥2,200 +tax

レーベル :TONOFON