2018
07.13

現行アジアインディー紀行 -Tie Shu Lan(鐡樹蘭) –

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多種多様な人種が住んでいるアジアの国際都市・香港ですが、音楽業界は常に保守的で、ジャンルの多様性も無く大衆向けのポップスばかりが受け入れられてきました。かつて唯一、BEYONDという伝説のバンドが香港の音楽業界において絶大な人気を誇り活躍していました。しかし不幸にもボーカルが不慮の事故により亡くなり、残されたメンバーで活動していましたが、2005年に惜しまれつつも解散しました。後にも先にも香港でバンドといえばBEYONDしかないと言われていましたが、満を持して頭角を現したのがTIE SHU LAN/鐡樹蘭です。

2005年の春、香港でハードロックはもちろんヘヴィメタルなどのジャンルが軽視される中、「ニューメタルで香港の音楽業界に挑戦しよう」とTIE SHU LAN/鐡樹蘭は結成されました。最初はライブハウスやバーなどのイベント、大学主催のイベントなどでライブの出演回数を重ねていました。ボーカルのSunnyの全身全霊を投入したライブパフォーマンスは観客の心を掴んで魅了し、ステージを重ねるごとにファンを着実に増やしていきました。当初は香港を拠点に活動していましたが徐々に活動範囲を広げ、近隣の広州、マカオ、などでも活躍するようになり、その後も北京や台湾まで進出するようになりました。

 

2011年1月、これまでの5年間の活動の集大成としてファーストアルバム<讓信念繁衍>が発売されました。広東語の歌詞をニューメタルの音楽に乗せた組み合わせは香港の音楽業界に衝撃を走らせ、アルバム収録曲「再」のMVは各メディアで高視聴率を叩き出しました。

 

 

2017年1月、セカンドアルバム<自白>を発売、「自白」のMVは日本人監督Hiroya Brian Nakanoが手掛け、独特の撮影法と出来栄えにメンバーも満足でファンからも好評を得ました。また、このアルバムは「ただ叫んで世の中に不満を訴えかける」というようなメタル音楽に対する世間のイメージを壊す狙いもありました。このアルバムにはラブソングから生死や人生観まで、実に様々な作品が織り込まれています。

鐡樹蘭結成後の2006年、Sunnyが同じくボーカルを務めるSupper momentというバンドが結成されました。鐡樹蘭とは真逆の路線のバンドで、いわゆる香港の大衆が好きそうなバラードやポップスを中心とした楽曲が多かったため、多くの新しいファンを獲得する一方で鐡樹蘭が休止してファンは鐡樹蘭が解散するのではないかと心配したり、結局は大衆に妥協するのかと失望したり複雑な思いでした。しかしこの後、Supper momentが有名になるにつれて鐡樹蘭の知名度も上がり、Sunnyも鐡樹蘭を再始動させ、ニューメタル路線で突き進んでいったので結果としてどちらのバンドも世間から注目されるようになりました。

TIE SHU LAN/鐡樹蘭が香港のインディーシーンにもたらした影響は大きく、彼らを目指してバンドを始めた若者は少なくありません。彼らがバンドを始めた頃にはライブハウスも少なく、バンドをやる側も見に来る観客も、遊びの延長に過ぎない雰囲気でした。しかし彼らがバンド界で活躍し始めてから、演奏する側も最大限のパフォーマンスをステージで発揮し、観客もただ「黙って見る」のではなく「声を上げて全身で参加する」という風潮に変わり、バンド界がみるみる活気づいて来ました。今では彼らを目指して活動しているインディーズバンドが多くあります。

 

これだけ香港の音楽業界に新しい風を吹き込んでいるTIE SHU LAN/鐡樹蘭ですが、今なおインディーズバンドとして独自に活動を続けています。厳密には香港以外の地域においてはエージェントを利用して活動をしているのですが、基本的に香港内では友人などの助けを借りることで活動しています。SNSや動画投稿サイトなどで今やメジャーもインディーズもそれほど差がなくなってきて、レコード会社との契約は必ずしも必要なものではないのかもしれません。今後の契約・つまりメジャーデビューについては未定で、十分に理解してくれる「会社」、もっと言えば「人物」に出会えれば考えたいと彼らは語っています。この香港の音楽業界で、香港のバンドが何を必要としているのかを十分に理解できる社長と意気投合すれば、メジャーデビューも実現するのでしょう。

 

 

取材・文=佐藤あおい