2018
07.31

【レポ】THE BEATNIKS、渋谷タワレコトーク・イヴェント

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 台風一過の日曜の夜の渋谷にTHE BEATNIKSがやってきた。正確にお伝えすると、ニュー・アルバム『EXITENTIALIST A XIE XIE』の発売記念トーク・イヴェントのため、タワーレコード渋谷店 B1F CUTUP STUDIOに高橋幸宏と鈴木慶一が登場したのだ。この日、ふたりの登場曲となったのは、“シェー・シェー・シェー・DA・DA・DA・Yeah・Yeah・Yeah・Ya・Ya・Ya”の耳なじみのない新ヴァージョンで、DE DE MOUSEと佐藤優介(カメラ=万年筆)の両名によってリミックスされたらしい。シリアスさとナンセンスさが絶妙なバランスで混じり合った原曲を大胆に料理した仕上がりにおふたりともご満悦の様子だ。聞けばこの2曲、12インチ・アナログ・シングルとして、ふたりが出演する<フジオロックフェスティバル2018>の会場でのみ限定リリースされるそうだが、<シェー>のポーズをきめるジャケットのふたりのイラスト(デカパン似の慶一氏、イヤミ似の幸宏氏というデザイン)がなんともコミカルでかわいらしく、ぜひとも所有したい気持ちに駆られる。
 ご存知の方も多いと思うが、“シェー・シェー・シェー・DA・DA・DA・Yeah・Yeah・Yeah・Ya・Ya・Ya”は赤塚不二夫の生誕80年を記念して開催された2017年の<バカ田大学音楽祭>に出演するために作られた2曲のうちのひとつであった。アルバム制作の出発点となった重要曲であるが、作品全体からいつになく開放感のようなものを感じてしまうのは、赤塚不二夫イズムを大量注入したこの曲が根幹を成しているからではないかと思えてならない。ここで語られたのは、ふたりの赤塚不二夫愛。
「私は毎週連載を読むのを楽しみにしていたよね。<天才バカボン>に左手で書いた号とかあるんですよ。メチャクチャですよね。意味がないことがおもしろい」(鈴木)
「なんでおでんばっかり食ってんのか、謎なことが多かった。でも、タモリさんが弔辞で<私もあなたの数多くの作品のひとつです>って言ったのは感動しましたね」(高橋)
 ところで今回のレコーディングは、慶一氏によると、5、6時間で1曲分のベーシックを作るぐらいのペースで進んでいったらしく、かつてない瞬発力によって作られた作品だということ。そこで持ち出されるのが、87年の『EXITENTIALIST A GO GO ビートで行こう』のときのエピソード。伊豆の別荘に機材を持ち込んで曲をいっぱい作ろうと臨んだものの、結局1週間で2曲しか完成しなかったというおなじみの話だ。「あのとき何やってたんだろう」と苦々しく振り返るふたり(主に幸宏氏は釣り、慶一氏は散歩していたそうだが)。そこで学んだことは、「海の近くでレコーディングをやっちゃダメってことだね」と慶一さん。
 続いて『EXITENTIALIST A XIE XIE』のレコ発ライヴとして行われた5月のEX THEATER ROPPONGI公演について振り返る。トークするふたりのバックに張られたスクリーンには当日の様子が映し出されており、ゴンドウトモヒコ、砂原良徳、矢口博康、白根賢一、高桑圭、堀江博久、永井聖一などの腕利きたちが揃った大所帯バンドであったことが伝えられる。この編成は幸宏氏曰く「生の部分を忠実に再現するため」だったということだが、実際のところTHE BEATNIKSの世界観をダイナミックに表現してみせたそのアンサンブルは絶品というほかなく、集まったオーディエンスから大きな喝采を浴びたものだ。メンバーのなかから話題に取り上げられたのは、相対性理論の永井聖一。
カントリー・フレイヴァーを湛えたギターもプレイできることに感銘を受けた慶一氏は、「クラレンス・ホワイトみたいでビックリした」と話していた。
そしてライヴの思い出について「楽しかったけど、(幸宏氏が)退院後すぐだったから非常に心配だった」(鈴木)とのこと。そう、この春彼はごく初期の網膜剥離が見つかって、硝子体手術を行ったばかりだった。それはオーディエンスも全員知っていたことだったが、その影響を感じさせないパワフルなステージ・パフォーマンスを目の前で展開してくれたのでひと安心したことをふと思い出した。そんななか、この日のライヴが録音されていたということが伝えられる。詳しく語られたわけではないが、どうやらなんらかの形で商品化されるプランが固まっているようだ(会場で見かけた映像クルーの話もチラリと)。
年内にはいろんなことがわかってくるんじゃないですか?」(高橋)とのことなので、発表を楽しみに待ちたい。さらにアイテム情報として、即日完売となってしまったためにゲットできず、涙を呑んだ人も多い『EXITENTIALIST A XIE XIE』のアナログ盤だが、どうやら再プレスが決定したそうだ。で、ジャケットは1987年リリースの2ndアルバム『EXITENTIALIST A GO GO』を完コピしたあのデザインとは異なるものになるらしく、これまたマニア心を大いにくすぐることになりそうな予感が。
最後に用意されていたのは、観客からふたりへの質問コーナー。いくつか紹介すると、THE BEATNIKSのフェイヴァリット曲は?という質問には、幸宏氏は“LEFT BANK”(THE BEATNIKS名義ではなく、それぞれのソロ・アルバムにおいて発表)、慶一氏は「むつかしい」とお茶を濁していた。それから今回のレコーディングで苦労したことは?という質問の際に出てきた歌詞についてのお話。幸宏氏は“Speckled Bandages”の歌詞が携帯に送られてきたとき、あまりの辛い内容にビックリしてしまったのだそう。そしてレコーディングのときも最初は「これ歌えない……」と慶一氏に伝えたとのこと。それに対して作者である本人は「いろんなインタヴューでも話しているけど、THE BEATNIKSのときはとにかく幸宏を驚かそう、という気持ちで作っているので、一行目で驚いてくれたらしめたもんだよ」と話していたのが印象的だった。

 話題がさまざまな方向へと大きく脱線しながらも、このふたりならではの不思議な一体感でもって、なぜだか納得せずにはいられない着地点へと辿りついてしまう。そんな素晴らしい芸当を目の当たりにできたトークショーだった。8月1、2日に開催される<フジオロックフェスティバル2018>、<SUMMER SONIC 2018>の8月18日にBillboad JAPAN Stageで行われるライヴも楽しみでならない。